翠雨 | ナノ


翠 雨  


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青虎眼石:学校



 学校が騒がしい。すこしだけどぴりぴりとした空気が漂っている。原因はたぶん僕と琥珀。浮いた噂のない琥珀が一年(つまりは僕だけれど)に目をつけた、とか。部屋に連れ込んで朝一緒に登校したとか。

……なんというか事実は事実なんだけれど。再会した日から今までの空白の時間を埋めるみたいによく泊まりに行っているし。

 本人である僕たち以外で、僕たちが血の繋がった兄弟で今まで離れて暮らしていたことは誰も知らないだろう。それを知っていたらこんなにマイナスな視線が飛んできたりはしないだろうから。

 今まですべての告白を断ってきて、それでいてみんなに平等で優しい王子然とした琥珀。それが学校での生徒会会計の琥珀。そんな人物が入学して数か月、ましてや留学から戻ってきた琥珀からしたら実質一週間くらいで、一年生の僕という存在と親密になったというのだから、噂の的になるのも仕方のないことなのかもしれない。
 ただちょっとこの視線は息苦しい。琥珀以外に本当に望んでいたものなんてないから、クラスメイトにすこし距離を置かれるくらい別にいい。けれど廊下を歩くだけで突き刺さる視線と飛び交う憶測は煩わしい。今までそれなりに気の合う同級生たちとつるんで、周りの景色に溶けこむように平凡な生活を送っていた身としては鬱陶しくてしょうがない。

 それでも琥珀がいてくれるからいい。いま、琥珀と実際に見つめ合って、声を聞いて、触れ合える。それだけで。


「翡翠。迎えに来た、行こう」

「うん」


 放課後。人数もそこそこいる教室のドアの入り口から顔をのぞかせ、甘やかに僕を呼ぶ琥珀。クラスメイトたちは複雑な表情をしていた。それには見ないフリをして鞄を手に教室を出る。


「琥珀、生徒会は?」


 廊下を並んで歩く。僕に予定なんてないから、自然、琥珀の足を追う。


「あるよ。でもすこしだけだから一緒に来て」

「行く」


 触れたい、と思う。でも変な噂が立っている上に、僕らが兄弟だと知られたら白い眼を向けられるのは明らかだ。学校ではあくまで兄弟の僕たち。

 早く帰りたいな。帰って琥珀に抱きしめてもらいたい。



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