葡萄石:翡翠と琥珀
雨が降っている。僕たち兄弟にあてられた部屋の大きくサイドに切り取られた窓硝子を激しく叩いていた。ざあざあ。空が泣いていた。
両親たちは家からだいぶ離れたショッピングモールへと出かけているから、遅い時間まで帰って来ない。一緒に行って夕飯を食べて帰ろう、と彼らは言ってくれたが僕たちは頷かなかった。知っていた。最近喧嘩の絶えない彼らが人の好い笑みを浮かべて誘うのは気味が悪かった。きっと家族最後の食事だったのだ。今頃彼らは険悪なムードで休日で人の賑わう中を歩いているのだろう。
ひどく莫迦らしかった。
あの人たちと最後に食事をするくらいなら、兄とすこしでも長く居たかった。
「翡翠」
電気もつけず、雨雲のたれこめる暗さだけがレースカーテンの向こうから覗いている。その中でただ兄と二人床に座りこんで向かい合っていた。
兄の綺麗な細い指が頬を撫でる。僕は甘えるようにすり寄った。それに兄は気をよくしたようで口元の弧を深くし、濃いt茶色の瞳を愛し気に細めた。彼の蜂蜜色のやわらかな髪だけが暗闇の中で輝いて見えた。どれも好きだけれど、いちばん好きなのはこちらを見つめてくれている兄の表情だった。
掌から頬に伝わる体温が温かい。たまらず兄の首に手を伸ばした。そのまま膝に乗り上げて隙間がないほど密着する。