薔薇輝石:梅雨
雨期が来た。梅雨だ。
雨がそこら中を叩く音、鼻孔をくすぐる土の匂い。騒がしい蛙。時折、遠くで光る雷鳴。
医療用の眼帯を左眼にあて、伸ばしていた左前髪でそれを隠すように下ろす。
雨の日は気圧の変化で古傷が痛んだり、頭痛がしたりするという。僕も同じように左眼がズキズキと疼いていた。痛い。この時期はこれだから憂鬱だ。目を開けていると今より痛んで目を開けてられないので勘弁。
昨日はしずかに荒れ狂う夜だった。雨はしとしと降り、雷はゴロゴロと鳴っていた。それも朝が来れば、きれいに晴れて上がり、湿っぽい、土や草木のにおいに満ちていた。
琥珀に、会いたい。
じくじくと胸を侵食する気持ちを、頭をぶんぶんと振って隅へ追いやろうとする。でもできなくて。
制服の下、胸元にさがる琥珀のペンダントトップが熱を持っているように触れる肌の部分が熱くて、琥珀への想いへ追い討ちをかけるようだった。
「おい、どうした。また気分でも悪いんじゃないのかよ」
ぶっきらぼうな声に振り返ると、眉間に皺を寄せた久住。今日も一緒に部屋を出てくれていた。
「ううん、何でもないよ。ありがと」
「そうか?お前、顔が赤いぞ」
「ほんとに大丈夫だから…」
久住の言葉に反射的に顔を隠すように俯いてしまう。
ねえ、琥珀、昔みたいに触れたい。
好きなんだよ、琥珀。
形にした想いは今まで抑圧されてきたぶん、弾けるみたいに、どくどくとあふれている。
どうしようもない。どうにもできない。本当、タチが悪い。