薔薇輝石:2
「席、借りるよ」
それだけ言って会長席に座り、パソコンの脇の認識装置に生徒証を差しこんでパソコンを操作し始める。生徒会長の生徒証。これにはいくつか特権があるが、会長席の認識装置がついたパソコンで生徒証がいる作業なんて一つしかない。――生徒名簿の閲覧および照会。
なんだか気になって木附の背後に回りこみ一緒に画面を覗きこんだ。
木附は検索画面が出ると躊躇いもなくキーボードを叩いた。そこに表示される名前は割と最近、聞き知ったものだった。
「その名前……」
表示された生徒のデータ。名前と顔写真は確かに裏庭で会った可笑しな後輩だった。
「二条、知ってるの。なら教えて。どこで会ったの」
「裏庭だ。ほら、そこの窓から見えるだろ」
そう、と気のない返事が返る。
「翡翠…」
そっとこぼされたその微かな声は確かに震えていた。手を組みそこに額を預けている様は項垂れているようにも、心底安堵しているようにも思われた。よく分からなくて気味の悪いと思っていた彼の背中がずっとちいさく見え、とても人間臭く感じた。
俺たちは木附の様子にしばらく動けないでいた。