薔薇輝石:言伝て
会長視点
「篠原、帰ったか」
書類を預かりに行っていた篠原が生徒会室に戻って来たのはそう、当たり前なんだが。なんだ、その微妙な顔は。どうしたらいいのか分からないというような表情をしている。
席を立って、篠原から書類を受け取る。確認をしつつ口を開いた。
「ずいぶん遅かったな。受け渡しの生徒が来るのが遅かったか?それともその生徒に捕まったか。」
「いえ、捕まったというか何というか……。木附先輩への伝言を託りました…」
「伝言?」
自分の席で作業していた木附が手を止め、小首を傾げる。蜂蜜色の髪がさらさらと揺れた。
「ええ。外部からの新入生の子だったので、何か困ってることはないかと聞いたら伝言を頼みたいって言われて。本人が言えば分かるからって名前は聞かなかったんですけど」
「ふうん。で、その伝言はどんなだったの?」
木附が張りつけたような笑み―素を知っているからそう思えるのかもしれない―を浮かべて篠原に内容を言うよう促す。
「ええと、確か『宝石は昔と変わってないから。宝石はあなただけのものだ。』って」
なんの話だ。宝石?さっぱり分からん。意味がまったく理解できずにいると、いきなり席を立った木附に肩を掴まれていた。
「え、おい。なんだ」
「二条、ちょっとカード出して。早く!」
そう怒鳴った木附の秀麗な顔にあった穏やかな笑みは消え、切羽詰まったように歪められていた。普段温厚な木附の豹変ぶりに生徒会室にいた他の役員たちは驚いてこちらを見つめている。
木附に言われた通り、生徒証を手渡す。