薔薇輝石:決壊
寮の自室に戻り、布団をかぶる。
踏み出してしまった。均衡を保っていた関係を崩してしまったことになるはずだ。
琥珀はどう思うだろう。同じように僕が同じ学校にいることを知って…。
その先を想像した途端、心臓を握られたように胸が痛む。怖い。
大丈夫。きっと大丈夫だよ。琥珀なら――。
琥珀。あなたを傍に感じていたいからと身に着けている琥珀のペンダント。時を閉じ込める宝石。あなたと過ごした時間は今も琥珀の中に閉じ込められているのかな。
はっきりと自分の中でも名付けなかった感情。今までそれを言葉にしたこともないし、近い言葉や表現で避けたりしていたけれど。兄弟間。行き過ぎた愛情。
認めよう。
僕は琥珀のことが好きだ。募る想いは熱くてドロドロとして綺麗なものじゃない。琥珀のことが恋しい。愛しい。決して家族に抱く感情なんかじゃない。僕は琥珀のことが恋愛感情で好きなんだ。
どうして。兄弟じゃなきゃ良かった。
実の兄を恋愛感情で好きだなんて。つくりもののようにいっそ義兄弟だったら良かったのに。
そうしたら、こんなに苦しくないだろうに。
「たすけて、こはく。くるしい……」
苦しい。痛い。悲しい。でも、あなたが堪らなく愛しい。
ぼろぼろと閉じた目蓋の下からあふれる涙。痛みを耐えようと胸元の琥珀を掌に爪が食いこむほど握りしめ、ちいさく身を丸めて縮こまる。
胸が重しを乗せられたように重苦しく、鈍く痛んで、泣き叫びたくなる。取って、この胸のつかえたものを。
たすけて、琥珀。