薔薇輝石:3
お願い、という言葉に副会長は顔をすこし顰める。でもそれを気にする余裕もないくらいにはどくどくと大きく心臓が脈打っていた。きゅうっと自身の胸元を掴む。制服の下には琥珀のペンダントがある。
「会計に、木附琥珀さん…いますよね。彼に伝えて欲しいことがあるんです。」
副会長は困惑しながらも頷いた。それを見て取ってわななく唇を動かした。
「伝えて、ください。『宝石は昔と変わってないから。宝石はあなただけのものだ。』って。伝えて欲しいんです。きっと…それで伝わると思うから。だから、」
くしゃりと力なく笑う。その弱々しい微笑に副会長はなにかを感じ取り、ぐっと強く頷いた。
「よく分からないけど、伝えればいいんだよね。木附先輩とは知り合いなの?」
「はい」
「うん、じゃあ伝えておくね。そうだ、君の名前は?」
「いいんです。たぶん、分かってくれると思うから。その言葉だけ、お願いします」
深く下げた僕の頭を副会長は一度だけやさしく撫ぜた。その手つきは琥珀を思い出させてちょっと涙ぐんだ。
「こはく…」
副会長がエレベーターに乗って行ってしまった後。こぼれた言葉は絞り出したかのような苦しさと痛ましさを伴って。