薔薇輝石:頼みごと
五月も下旬に差しかかった頃。もう少しすれば梅雨入りするだろう。それを考えると憂鬱になる。雨が降っているとかなりの確率で体調不良になるからだ。じめじめとした空気に気が滅入るというが、僕にとっては全く言葉の通りだ。
担任から預かった書類を手に、委員会や会議の部屋などが設けられている棟へと来ていた。どうしても外せない用事があるらしく、かといって書類の〆切が差し迫っている。そこでちょうど職員室にいた僕が代わりに頼まれた。
書類は……生徒会の管理下になるもので。かといって生徒会室へ直接行くわけじゃない。仲介者を用意したと聞いているが大丈夫だろうか。なんとなく不安だ。
この棟の上階には生徒会室や風紀委員室がある。それには専用のエレベーターを使わなければいけない。これには許可申請された生徒証(この学校はカードの形で、ホテルのキーのような感じだ)がない限り、つまり役員や風紀委員でない限りエレベーターを使うことはできない。
予想通り、エレベーターのところに人が立っていた。すこし、いや、かなり予想外の人物が。
「副会長……」
「はい」
思わず、と呟いた言葉にも律儀に反応した篠原要副会長。間近で見るとやっぱり美形だなあ、と思ってしまう。そして仲介者が彼であったことに安堵とがっかりしたような感情がないまぜになって押し寄せる。
琥珀ならよかった。琥珀じゃなくてよかった。