黒曜石:2
「ぁん……っ」
口を離してその顔を覗きこむと案の定、よく熟れた林檎のように真っ赤で。生理的なものだろう涙が花緑青(はなろくしょう)色の潤んだ瞳からほろほろと涙が伝い落ちた。
「こはく」
キスをした後のぼんやりとした翡翠。その舌足らずの甘えるような声音で名前を呼ばれるのが堪らなく好きだった。
手を伸ばして来た翡翠の細くしろい腕が琥珀の頭を抱き寄せ、淡くやわらかな金髪がその首元に埋まった。うっすらと上気した肌は桃色に色づき、しっとりと汗ばんでいる。
「翡翠…」
「なに…って、ひぅっ」
浮かぶ汗をペロリと舐め上げれば、高い声が上がった。
「もっと可愛い声で啼いて、翡翠。俺だけの翡翠」
ゆらゆらと瞳を揺らめかせる少年に琥珀は幼いながらにはっきりと妖艶な笑みを口元に刷いた。
いつか、手に入れたい。たとえそれが赦されないことであったとしても。
翡翠、俺はお前を手に入れるよ。
この胸中に渦巻くどろどろとした想いをどうすればいいのだろう。焔よりもずっと重いもの。マグマとかの表現の方が正しいのかもしれない。執着とかも勿論あるだろう。決して純粋で綺麗な感情ではないと自覚している。けれど根底にあるのは揺るぎない愛情で。
実の弟にこんな感情を抱くのはおかしい、と一言に吐き捨ててしまえればどんなに楽だったろう。考えだけで胸がひどく痛んだ。
翡翠に対する重いは崖の淵にある巌や、ともすれば時限爆弾に近いのかもしれなかった。いつか爆発する。それは俺が壊れるときなのか、もしくは――。
「翡翠」
寝室に飾られた翡翠の写る写真立ての縁をそっと撫でた。