翠雨 | ナノ


翠 雨  


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珪孔雀石:2



「――うちの会計に。」


 よく似てるよ、雰囲気とか。木附に。

 突かれた本人も知らぬ核心にぞわぞわと皮膚がざわめく。なにか冷たいものが手先から這い上がってくるような気がして、両の手の強く握り締めた。
 それはきっと罪悪感とか背徳感とか、そんな後ろ暗いもので。でも、どうしようもなくお互いに惹かれて。ああ、どうしたらいいんだ、全く。


「おい、どうした?大丈夫か」


 知らず知らずのうちに俯き、己を抱き締めるようにして縮こまっていた。会長の声とともに手が肩に触れ、はっと我に返る。


「……すみません、大丈夫です。」

「いや、こっちこそ悪かったな」


 ばつの悪そうな顔をしている会長を見てうっすらと口元に笑みを刷く。この人は人を思いやれるひとだ。それはそれだけ人の気持ちに敏感だということだ。兄以外のことはどうでもいいとさえ思える自分にはすこし羨ましくもあり、このときばからに憎らしいと感じた。会長はもう僕の動揺から、会計となにかしら関わりがあることを察知しただろう。けれど、彼は敏いからこそ――。


「その弁当、さっさと片しちまえ。昼休み終わるぞ」


 そうやって、察したことを悟らせないように穏やかに微笑んで話題を転換してくれる。ありがたいけれど、自分には真似できないことも明白で、やはり憎らしいと思った。



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