翠雨 | ナノ


翠 雨  


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珪孔雀石:5



 人間に裏表はある。大抵それらは善悪で分けられるのだろうけれど、木附の場合は少し違う。彼の何の感情も持たない素の彼は、善でもなければ悪でもない。無だ。空虚の一言に尽きる。彼の何がそうさせているのか、俺には好奇心はあっても興味はない。
 ともかく俺が木附を好かないというのと、彼がひどく人間味のない男だと思っていることの認識は変わらない。



 昼休憩を終えて生徒会室に戻る。顧問から渡された提出期限が明日の書類を片して仕舞わなければいけない。
 この学校は生徒だけで運営していると言っても過言でないほど、全てが生徒の自主性にかかっている。それを取りまとめるのが生徒会である以上、イベントごとが近付くと忙殺されるのは否めない。それを除いても普段からの仕事も多少なりともあるが。


「ああ、二条先輩おかえりなさい。ちょうどコーヒーを入れたところなので、どうぞ」

「おう」


 副会長の篠原が物音に気付いてひょこりと給湯室から顔を出した。篠原はコーヒーや紅茶に明るく、淹れ方にも凝っているようで美味い。飲むならやはり美味い方がいい。今は篠原はお茶係となっているも同然だった。
 ソファに腰を下ろすと篠原がコーヒーと茶菓子のクッキーをテーブルに置いていく。


「クッキーは僕が焼いたものです。よければどうぞ」

「ありがたく頂こう」


 手先が器用らしく、どうやら料理も得意らしい。篠原は親衛隊と一緒に菓子作りなどをしていると聞いたことがある。


「そういえば、先輩はどこに行かれてたんですか?」

「ああ、裏だよ。」


 ぐいっと顎で会長席の後ろの開き窓を示す。あの庭と呼べるかどうかも怪しい裏庭はちょうどその窓から見下ろせる。



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