翠雨 | ナノ


翠 雨  


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珪孔雀石:2



 兄が同じ学園に通っているという衝撃の事実を知ってから一週間が経った。
 僕の生活は前とあまり変わらない。変わったことと言えば食堂へほとんど行かなくなったことくらいだろうか。以前は自炊を基本に面倒なときなんかに利用していたけれど、万が一兄に出会う可能性を考えると、どうしても足が竦んでしまう。僕自身、どうしていいか分からずに兄を避けていた。それもあって今はお昼ご飯も弁当にすり替わっている。
 弁当をひとりでひっそり食べるための場所も見つけた。あまり使われていない教室がある側の裏庭だ。校舎を背にベンチが一つあるだけで、あとは花壇に植え木とちょこっとした花が繁茂しているくらいで、人気がないのは一目瞭然だった。一年生のある棟からはすこし離れたところにあるも少し歩けばいいだけの話で、利用し始めてからいまだに人に会ったことはないからこの場所の存在は有難かった。

 今日も今日とてその裏庭へ足を運ぶ。



 天気は快晴と言って差し支えない蒼穹。木々に囲まれた場所なので空気がきれいだと思う。人の雑踏の中はやはり色々な臭いがあるから。
 落ち着くなあ、と弁当を開いたところでふと足音が聞こえた気がした。この裏庭は芝生だけれど、ここに来るまでの小道は砂利道なのだ。その分、小石が踏まれる音が聞こえる。
 気のせいだろうか、と首を傾げたところで校舎の影、校舎同士の隙間と言っても過言ではない小道から人影が現れた。予想外の人物で、翡翠の名通りの双眸が大きく見開かれる。思わずはっと息を呑んだ。


「お前…」


 あちらも驚いているようだった。

 染めているだろう明るい茶の髪、同様に色素の薄い瞳と鼻梁の整った高めの鼻、しっかりとした身長に合った体躯。それらは至極綺麗なバランスで。兄は綺麗だけれど、この人はカッコいいという言葉が適当だった。

 二条総一生徒会長、この学園で頂点に立つその人。



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