翠雨 | ナノ


翠 雨  


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天青石:2



 のどの奥になにかが張り付いて言葉にならない。こぼれ落ちるのは震える吐息だけ。思わず口を両手で覆って声を殺した。さもなければみっともなく声を上げて泣き出しそうだった。


「新入生の皆さんはじめまして、二、三年生の皆さんは久し振り。留学していた生徒会会計の木附琥珀です。えーと、留学していたのは語学留学のためです。交換留学生の募集があり、どうしても海外で学んでみたいと思い、生徒会に所属していながら無理を言って行かせてもらいました。向こうでは、同じく交換留学生の同級生たちとともに――」


 耳に心地よく残る声はもうずっと前に聞いたものだ。六年も前。僕を大切だと告げてくれたあの声。記憶にあるものより低くなっているけど、間違えようがなかった。僕が兄の声を間違える筈がなかった。

 兄だ、あの兄が目の前で喋っている。もう会えないと思っていた。両親たちの縁はすっかり切れたようで何の連絡手段も持たなかった。だからもう、本当に会えないのだと、あの声を聴くことも、姿を見ることが叶わないと思っていたのに。



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