天青石:2
「ああ、ごめんね。駄目だね、雨の日は。どうしても意識がどこかに飛んでっちゃう」
一つ溜息を吐くと、同室者―久住志郎は微妙な顔をした後、ん、と手を差し出してきた。受け取ってみればそれは医療用眼帯だった。ほら、やっぱり。こういうところ、気が利く。
「ありがとう。今日は雨、降るかな」
「さあ、天気予報は二十パーつってたな」
「そっか」
眼帯を左目につけて、いつもはピンで留めている左前髪をばさりとおろした。あれだ、ぱっと見、たぶん某アニメの妖怪になっていることだろう。
当たり所の運が悪く、僕の左眼の視力は著しく低下していてもう戻ることはない。雨の日は調子が悪い。ひどい時はめまいや頭痛とともに左眼もガンガンと痛みだす。治ったはずのそこが痛むのは異常がないことから精神的なものだろう、という判定を医師からもらっている。だから雨の日は眼帯をする、そしてそれが隠れるように前髪をおろすのがいつからか僕の習慣になっていた。あの、雨の日の話だ。今まで生きてきた中で一番多くの出来事があったあの日。ひどい豪雨だった。左眼はあの日に負った怪我が原因だ。僕自身、そう深く考えてはいないけれど、どこかでトラウマになっているのかもしれない。
「ほら、行くぞ」
「うん。あ、今日は一緒に行ってくるの?」
「……今日は曇って暗いからな。」
目を逸らして言う久住はやっぱり良い人だ。
雨だから僕を心配して言ってくれてるのでしょう?
くすりと小さく笑うと鞄を肩にかけて二人で部屋を出た。