ありきたりな言葉はいらない
目の前にはむせ返るような薔薇の花とどこから仕入れてくるのか分からないプレゼントの箱。目の前で不敵な笑みを浮かべる高遠に、名前は苦い表情を見せた。
どこで入手したのか分からないが、いつの間にか名前の住むマンションを調べ不法侵入し部屋を自分の好みに変えられた。
元々、女の子らしい物がそんなに好きじゃない為に、部屋には何も飾らない様にしていたのだが、気が付くと花が飾られていたりぬいぐるみが置いてあったり好きで買っていたパーカーやパンツ系の服がスカートやワンピースに変えられていたり…

「あのさ、こういうの迷惑だって言ったよね?」

「またその様な口を…もう少し女の子らしく振る舞えないのですか?」

高遠の言葉に、名前はムッとして睨み付ける。
一変した表情に高遠はやれやれといった表情で腰を上げた。

「そんなのアンタには関係ないだろ!」

「関係ありますよ。名前が好きだとずっと言っているじゃないですか。格好や部屋については趣味という事で見逃しますが、せっかく美しく生まれたのですから言葉遣いは女性らしくして欲しいじゃありませんか」

「アンタの理想を押し付けるなよ!私はこれがいいって言ってる!!」

ふん!とそっぽを向いてしまう名前に、高遠は再びやれやれと息を吐いてお茶を入れにキッチンへと向かった。
高遠がお湯を沸かし、いつの間にか買っていたティーセットの準備をしているのを眺めながら名前は複雑な気持ちになる。

“高遠さんはどうして毎回懲りもせずここに来るのか”

出会ったのはいつだっただろう?確かアルバイトをしている時だったか。
どうしても好きで追いかけていたバンドと少しでも触れあいたくて頼み込んでライブハウスでのバイトを始めた。
当時は高校生だった為、深夜まではいる事が出来なかったがそれでも幸せだった。
大好きなブランドのパーカーにショートパンツとスニーカー。
周りからは“せっかく女の子何だからスカートくらい履いたら?”耳にタコが出来るかと思うくらい言われたその言葉にいつもうんざりしながら苦笑いを浮かべた。

いつもはバンドのライブをするライブハウスだが、一度だけ名前も知らないマジシャンがマジックショーをするからと1日貸し切りにした事があった。
そこで出会ったのが、地獄の傀儡師…高遠遙一だ。
何を気に入ったのか分からないが、楽屋に入るスタッフとして名前を指名した高遠は、歯の浮いたセリフをよく言ってきた。
静かな楽屋に響くセリフに、名前はウンザリした様な顔で腕を組んだ。

「そんな歯の浮いたセリフ、いい年して恥ずかしくないですか?」

「本心を口にしているだけですが?」

「うわっ!それが本心とか引く…」

「どうしたらそんなに口が悪くなるのか…」

嘆かわしいと言わんばかりの高遠に、名前は舌を出した。

「アンタは私の親か!めんどくさい。嫌だと思うなら私に構わなきゃいいだろ!放っておいてくれない」

「それは難しい…」

「何で。放っておけばいいだろ」

「それは出来かねます。どうやら、私は名前の事が好きになってしまった様でしてね」

高遠の突拍子もない言葉に、名前は素っ頓狂な顔で高遠を見る。
予想だにしていなかった言葉に認めたくはないが動揺してしまう自分がいる。
何故だか心臓の鼓動が早い気がして気づかれない様に服をギュッと握った。

( *前 │ 表紙次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -