まるで歌劇の様な恋でした
いつも、朝目を覚ますと必ずやる事がある。
自室のベッドの横にある窓だけは必ず自分でカーテンと窓を開ける。
朝のすがすがしい空気を全身に取り込み、バルコニーへ出ると目印に置いた植木の傍に必ず彼からの贈り物が置かれている。
それを確認した名前は柔らかな笑みを浮かべた。

「高遠さん、ありがとうございます。」

小さな箱に入れられたそれを開けると、中には小さなオルゴールが入っていた。
いつか自分が好きだと話していた音色が紡がれ名前はそれをそっと抱きしめた。

高遠と出会ったのは、学校からの帰り道。
たまには歩いて帰りたいと無理を承知で家の者を説得し生れて始めて寄り道という物を体験した。
夕暮れの公園は、家路へと急ぐ子供の声が響いていた。

「おじさん、また今度ね!」

「来週もここに来るからね。待っているよ」

ピエロの様な仮面をした男はそう言ってにこやかに走り去る子供たちに手を振っていた。
不思議な人だ…名前はそう思い男を見つめていると、片づけを済ませた男と目があった。
顔までは見えないが、まっすぐとこちらを見るピエロの男に名前は内心動揺を隠せずにいる。

“怖い人だったらどうしましょう”

あまり一人で外出することがない名前は、どう見ても怪しい風貌の男に恐怖を覚えた。
もし、この男が悪い事を考えている輩で自分を誘拐しようとしていたら…
そんな事を考え固く目を瞑ると、ピエロの仮面の男は名前の前にそっと手を伸ばし一輪の薔薇を出して見せた。

「…?!」

「宜しければどうぞ、可愛いお嬢さん」

「あ…ありがとうございます!凄いですね!魔法の様です!!」

何もない所から突然現れた薔薇の花に、名前は子供の様に目を輝かせた。
名前の表情に、ピエロの男はフッと声を漏らした。

「魔法…ですか。それはそれは、私には勿体ない言葉だ」

「そんな事ありませんわ!この様な素敵な事、生まれて初めてです!」

嬉しそうに微笑んで見せる名前に、男は仮面を外した。
仮面の下に隠されていたのは、まだ20代前半だろうか…端正な顔立ちの青年だった。
印象的な金色の瞳に漆黒の髪。
一瞬にして目を奪われた名前は胸に暖かな気持ちを感じた。
素顔を露わにした男は、不思議そうな顔をして名前を見つめた。

「…私の顔を見ても何も思わないのですか?」

「何がですか?」

「いえ…なんでもありません。私は高遠遙一と申します。あなたのお名前を教えて戴けますか?」

「私は、名字名前と申します。よろしくお願い致します」

名前はそう言うと高遠に手を差し出した。
握手を求められた高遠は、少し驚いた様な顔をしたがすぐ表情を戻し名前の手に己の手を重ねた。

「名前さんですか。良いお名前ですね」

「ありがとうございます。その様な事をおっしゃって戴ける事が少ないので、少々戸惑ってしまいますね」

頬を赤くして俯く名前に、高遠はフッと笑みをこぼし重ねていた手を離すと髪を撫でた。
高遠の細い指が、さらさらと髪を撫でていき名前は更に顔を赤くする。
いつまでもこうしていたい。
そう願う名前は、ふと腕時計を見て声を上げた。

「あ!いけません。もう帰らねば家の者が心配します」

「そうですか。それは残念だ…また、来週お待ちしていると言ったら、名前は来てくれるでしょうか?」

「もちろんです!必ず…またこちらに参ります。高遠さん、お約束ですよ!絶対に来て下さいね!」

「ええ。あなたの為に約束しますよ」

高遠はそう言うと、名前の小指に自身の小指を絡めた。
触れあった指は熱く熱を持っている様な気がして、離れた際に触れた空気に涼しいような寒いような…初めて感じる思いを抱え名前は足早に家へと帰っていった。

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