退屈な授業を終えて、一人の家に帰ってくると玄関に男物の靴が一足。
綺麗に揃えられたそれに、緩む口元とは裏腹に悪態が一つ溢れ出る。

「もう!帰ってくるなら連絡入れてよ!」

玄関で靴を脱いで足早にリビングへ向かえば、部屋に広がるワインの香りに名前は、うっと声を漏らした。
名前に気付いた高遠は、ソファに座ったまま顔だけで振り返るとすぐ様顔を戻してワインに口をつけた。

「おや、帰ってきましたか。お帰りなさい」

「お帰りなさいじゃないですよ!何でこんな早い時間からお酒なんか呑んでんのよ!」

酒臭い!と文句を言いながら、部屋の窓を開ける名前に、高遠は苦笑しながらワイングラスを回す。

「私がいなくて、さぞ寂しかった事でしょう」

「べ、別に寂しくないし!」

「素直じゃない」

高遠は、フッと笑みをこぼすとワイングラスをテーブルに置きキッチンへと向かった。

「早く着替えてきなさい。制服が皺になりますよ。夕食の下準備はしてありますから、出来上がるまでテレビでも見ていてください」

「やった!じゃあ、美味しいの期待してるから!」

名前は、そう言うと自室に向かい着替えを済ませると先程まで高遠が座っていたソファに腰を下ろしテレビのリモコンを取るとチャンネルを変えていく。
夕方の時間は、ニュースばかりでつまらないと思いながらチャンネルを変えると、高遠のニュースキャスターが名前を読み上げた。

「高遠さーん、またニュースになってますけど?」

「おや。私もだいぶ有名になった物ですね」

「悪い意味でな!」

ソファの上に膝を立てて座り、そう言えば言葉の代わりに調理の音と、美味しそうな匂いが部屋に満ちた。

お腹すいた。
久しぶりに感じるこの気持ちは、高遠さんが帰ってきてくれて嬉しいからこそ感じた物なんだろうと思った。

「わぁ!美味しそう!」

「私が作りましたから、当然です。さあ、冷めない内に食べましょう」

「いっただっきまーす!」

高遠さんの言葉に、こいつはまた何を言っているのだと思いながら料理を口に運ぶと、涙が出そうになってぐっと噛み締めた。
名前の様子に気付いた高遠は、少し驚いた様に名前を見つめた。

「名前、どうかしましたか?」

「……高遠さんのご飯…美味しいなって。一人じゃないご飯って…美味しいなって」

「いつも、一人にしてすみません」

「本当だよ、バカ!」

絞り出すように言って、ご飯を掻き込めば高遠は困ったように笑った。
食事を終え、風呂に入ってリビングへ戻った名前は、ソファに座りテレビを見る高遠の隣に腰を下ろした。
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