私の兄は、警視庁のエリートなのに変わり者と呼び声高い警視です。
捜査一課では、嫌味警視だの変わり者だの言われているようですが、私にとっては優しくて自慢の兄でした。
高校生になるまでは……
夜、ベッドの上は脱ぎ散らかした服で溢れ変える。
何度も何度も鏡の前で服を当ててはベッドの上に投げ捨てる。
「これじゃない!……これはない!」
「名前、先程から何をしているんですか?……またこんなに部屋を散らかして」
「お兄ちゃん!何でいるの……というか、部屋にはいるときはノックしてって言ってるじゃない!」
突然聞こえてきた声に名前は、その辺にあったクッションを投げつけた。
名前ななよって投げられたクッションを、明智はするりとかわした。
「避けられた。何か腹立つ……」
「まったく。いつからそんなにおてんばになったんですか?昔はよく私の後ろをついて回ったのは誰でしたっけ?」
「そんな古い話持ち出さないで!早く出てってよ!」
名前が怒りを露にすると、明智は仕方ないと言って部屋から出ていった。
明智が出ていったのを確認すると、名前は小さく息を吐いた。
「はぁ〜。お兄ちゃん、帰ってくるなら連絡してよね」
兄が家を出たのは、大学を卒業してからだった。
父を嫌い、刑事にはならないと言ってた。
大学在学中に司法試験にも受かったのに何故か刑事になることを決意して家を出た。
昔からシスコンで、何かにつけて口を出してきた兄。
幼い頃は自慢の兄だったが、流石に高校生になって私の彼氏について色々言ってきた時から距離を取り始めた。
もう一度、溜め息を着いて散らかった服を取り再度鏡の前に立つ。
「高遠くんと会うんだから、うんとお洒落しないと」
会うたびに、彼はいつも可愛いと言ってくれる。
彼と出会ったのは高校生の頃だ。
クラスは違ったが、高遠くんは秀央では知らないものは居ないくらい有名だった。
最初に声を掛けてきたのは、高遠くんだった。
「君、明智名前さんですか?」
「……そう、ですけど」
「僕は、高遠遙一です」
初めて会った高遠くんは、捉え所のないだけど、どこか寂しい目をした人だと思った。
差し出された手は冷たくて、でも触れあった手は次第に暖かくなっていった。
それがきっかけで、話をするようになった。
高遠くんは、よくピアノを聴かせてくれた。
「いつ聴いても凄いね」
「そうかな?あまり意識したことなかったし、意見をくれる人も少なかった」
「そうなの?私は、高遠くんのピアノ好きだなぁ」
そう言った時の高遠くんの顔は今でも忘れられない。
驚いたような顔は直ぐに薄く赤い色へ染まっていった。
つられて名前も赤くなる顔を隠す様に俯いた。
「あのさ……名前が良かったら、僕と付き合ってくれないかな?」
「わ、私なんかで良かったら!」
「ありがとう。嬉しいよ」
高遠くんのその顔は、今までに見たことがないくらい可愛さとかっこよさを兼ね備えていた。
「高遠くん……早く、会いたいな」