とあるホテルの大広間、豪華なシャンデリアに彩られた会場には大勢の人が集まっていた。
賑やかな会場の中、名前は薦められたシャンパンを断るとテーブルに置かれた
ウーロン茶を取り口をつけた。
いつもは下ろしている髪を纏め上げ、
結婚式で着る様な膝丈のワンピース姿で漏れるため息はどこか悩ましげに感じる、実際そんな色っぽい物ではなかった。


数日前、ようやく訪れたオフの予定を考えていた名前のケータイに、
友人からのメールが届いた。
都内の有名ホテルで行われる
【お見合いパーティー】に一緒に参加して欲しいとの事だった。
せっかくの休みなのに、そんな気を使う場所へ行くのは…と最初は断りを入れたのだが、
名前の好きなマジックショーもある上、
何より女性は格安で豪華ビュッフェが食べ放題との言葉に釣られ、名前は渋々参加することとなった。

「はぁ〜…食べ放題に釣られて来たけど、何か場違いな気がする」

「あ、いたいた!名前ってば、食べてばっかりいないで色んな人と話しなさいよ!」

「…興味ない」

会場に着いてから、名前を放って色々な男性と会話をしていた友人は品定めを追えたのか会場の隅でひたすらビュッフェを楽しむ名前の元へと来ると頭を抱えた。

「もう、あんたってば本当にマイペースよね。確かに、従兄妹があんなにかっこよかったら他の男なんて目に入らないのかもしれないけど!でも、ずっと彼氏なし何だから、ここでいい人見つけちゃいなさいよ!」

「今は、仕事が忙しいからな…」

「私は、名前の将来が凄く心配だわ……あ!マジックショー始まるみたいよ!せっかくだから近くで見ましょうよ!」

友人は、そう言って名前の手を引きステージの近くへと連れ出した。
一瞬会場が暗くなると、仮面を付けたマジシャンが現れ会場に拍手が響く。
名前は、マジシャンに何か違和感を感じ目が離せないでいた。
マジシャンは、一瞬名前の方を見つめ口端を持ち上げた。

「名前!あの人、さっき名前の方を見て笑ってなかった?」

「さぁ…気のせいじゃないかな?」

ひそひそと話をしていると、突然マジシャンが名前の方を指し声を掛けた。

「そこの素敵なお嬢さん!宜しければ、私のマジックの手伝いをして戴けますか?」

「え…私ですか?」

「良かったじゃん、名前!行っておいで!」

友人に背中を押され、転びそうになりながらステージへ出た名前に、マジシャンはそっと手を差し伸べた。
差し伸べられた手に自身の手を重ねた名前の目の前で、マジシャンが一輪の薔薇を出して見せた。
会場は拍手に包まれ、友人の方を見れば大きく拍手を送っていた。
マジシャンは、一輪の紅色の薔薇に口付けるとそれを名前へと差し出した。

「どうぞ」

「…ありがとうございます」

薔薇を受け取った名前を見つめ、マジシャンは口端を持ち上げた。
マジックが終わりステージを降りた名前に、友人は「お疲れ」とウーロン茶を渡し、背中を叩いた。

「お疲れ、名前!良かったね、バラの花まで貰えちゃって。あのマジシャンの人も仮面の下若そうな感じだし、いっそ持ち帰って貰ったら?」

「な、何言ってるの!!私は、そんなつもりは……」

受け取ったウーロン茶を飲みながら話していると、名前の後ろに先程の仮面をつけたスーツ姿のマジシャンが立っていた。

「美しい女性の話題に出して戴けるとは、私も幸せ者だ…」

「あ、さっきの!この子がお世話になりました」

「いえ、こちらこそ。お目に掛かれて光栄ですよ」

マジシャンは名前の手を取り引き寄せると、指先に唇を触れさせじっと見つめた。
仮面で隠れてはいるものの、自分を見つめるその瞳に、どこか覚えがある様な、そんな違和感を口にしようとした時、友人が名前の背中を押した。
背中を押された名前は、バランスを崩しマジシャンの腕の中へ飛び込む形になる。

「え…!す、すみません!」

「いえ。お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。すみません……」

文句を言おうと、振り向けばそこに友人の姿はなく遠くの方で見知らぬ男性と腕を組みこちらに手を振っていた。
やられた…そう名前が心の中で呟いた時、腰に腕が回され耳元に声が届いた。

「抜け出してしまいませんか?…二人きりで」

「えっと…」

困惑する名前に痺れを切らしたように、マジシャンは名前の手首を掴み会場を走り抜けた。
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