ほんの数年前まで、泣きながら自分の後ろを着いて来る少女だと思っていたのに、いつの間にか名前は見違えるほど綺麗に成長していた。
久しぶりに訪れた母校を見上げると、懐かしい気持ちとそこで起こった悲しい事件が思い起こされ少し感傷に浸ってしまう。
そんな明智の思いを知ってか知らずか、手に卒業の証を持った名前が明智の姿を見つけると手を振った。

「健悟さん!」

「名前、卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます。何とか無事に卒業出来ました」

明智の姿を見つけ、嬉しそうに駆け寄った名前はそのまま胸に飛び込んだ。
明智も名前を受け止愛しげに抱きとめると微笑み名前の髪を撫でる。

「明日も休暇を取りましたから、二人でゆっくり出来そうですね。折角ですから名前の卒業祝いを買いにいきましょうか」

「本当ですか?嬉しいです!」

そう言って笑う名前の目じりにはうっすらと涙が残っていた。
恐らく教室で泣いたのだろう。
擦って赤くなった跡があり、明智は困ったように笑う。

「泣くのは構いませんが、拭うのはいけないと言った筈ですよ?ほら、赤くなってしまっている」

「ごめんなさい、健悟さん…」

上目遣いでそう言う名前に、明智はぐっとこみ上げる物を押し込める。
今まで大事に育てすぎたせいか、名前は男性に対しての危機感が足りない。
性格的な物もあるのかもしれないが、とにかく誰にでも気を許しすぎる所がある。
下駄箱に入っていたと言うラブレターを本人に“間違って入れている”と返したり、告白されても買い物に付き合う感覚でどこへ行くのかと聞いてみたり。
その話を聞いて、ホッとしたのも事実だがいざ自分が名前に告白した時の事を考えると頭が痛くなる。

「名前、帰りましょうか」

「はい、健悟さん!」

明智は名前の手を取ると車まで連れて行く。
二人で明智の車に乗り込んで明智のマンションへ向かい二人でお祝いをする。
この日のために準備していた料理やケーキに名前は幸せそうに表情を緩めた。

「ん〜!健悟さんの作る料理は本当に美味しいです!こんな美味しいものが毎日食べれたら幸せだな〜」

「そうですか?では、毎日作りましょうか?」

「え?いいんですか?!」

明智の真意に気付かない名前は目を輝かせた。
しかし、すぐに表情を曇らせる。
明智は真意に気付かない名前に小さく息を吐いたが突然曇った表情に驚き声を掛けた。

「名前?どうかしましたか?」

「…私、女の子なのにすべてにおいて健悟さんに適いません」

「名前…?」

名前は料理を食べながら瞳を潤ませる。

「顔だって中の下だし、頭もそんなによくないし恋人だって出来た事なくて料理も上手じゃないし…私の女子力低すぎて、健悟さんの女子力が羨ましいです!!」

肌も白くて綺麗だしイケメンだし料理も出来て文武両道で神様は不公平だ!!
そう叫ぶ名前に、明智はフッと笑みを溢した。
明智が笑った事に、名前は瞳を潤ませたまま明智を見つめる。

「まったく…そんな事を気にしているのですか?」

「そ、そんな事って私には大事なんです!!」

名前は機嫌を損ねてしまい、ふいっと顔を逸らした。
明智はそんな名前の頭を撫でケーキを出す。
すると名前はさっきまで不貞腐れていたのが嘘のように笑顔を取り戻した。

料理を食べ、風呂に入ってベッドに横になる。
名前は明智の家に置いている自分のパジャマに身を包むと明智が横になるベッドに体を滑り込ませぎゅっと抱きついた。
小さい頃の癖が抜けない名前に明智は苦笑する。

「明日はどこへ行きましょうか?」

「ん〜洋服が見に行きたいです。ワンピース欲しくて」

「では、私が見立てて差し上げましょう。おやすみ名前」

明智はそう言うと名前の額に唇を触れさせる。
名前は安心した様に明智の腕の中で目を閉じた。
( *前 │ 表紙次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -