誰もいなくなった放課後の教室、窓際の席で高遠は頬杖をつきながら視線だけで目の前の彼女…名前を見た。
うーうーと声を上げながら必死に日誌を書く名前がとても可愛く思えて思わずフッと声が漏れた。
頭上から漏れた声に、名前は不思議そうに顔を上げる。

「高遠君も手伝ってよ…」

「僕は僕のやるべきことはやったから。名前なら出来るって信じてる。がんばれ」

「あんまり心がこもってないんですけど…?」

文句を言いつつも名前の顔は緩んでいて嬉しいのを我慢しているんだと感じ思わず口元が緩む。

「そうかな?でも、名前も嬉しそうな顔に見えるけど?」

「…だって、そりゃあ彼氏に“信じてる”なんて言われたら嬉しくもなるじゃない!」

そう言う名前の頭を撫でて、高遠は頑張ってと告げて再び窓の外へ視線を戻した。
名前はえへへと呟いて再び日誌に視線を落す。
シャーペンの進む音が響く教室の中、窓から漏れるオレンジ色の光に照らされた名前は今まで見てきた何よりも綺麗に思えた。

秀央高校に編入して、クラスに馴染もうとしない高遠に名前は声を掛けてきた。
いつもみたいに自分を好きだとかなんだとかめんどくさい事を言うのなら軽くあしらおうとした高遠だったが、名前の言葉に思わず目を見開いた。

「高遠君って、マジックやるの?」

「…名字さん、ちょっといい?」

高遠は名前の手を掴むと教室を出て行く。
人気の少ない所へ名前を連れて行くと手を離し困惑するように名前を見た。

「何で知ってるの、僕がマジックしてるって」

「あ、もしかして迷惑だったかな?ごめんなさい…実は先日近所の公園で高遠君が子供達にマジックしてるの見かけて。声掛けようかとも思ったんだけど…もし私の事覚えてなかったらショックだな〜って」

頭をかきながら苦笑する名前に高遠は小さく息を吐いた。

「名字名前さん、うちのクラスの人は名前と顔くらい一致する」

「さすが高遠君!全教科満点だったし頭いいんだね〜」

「そう言う君だって、クラス委員もしてるし成績もいつも上位じゃなかった?」

さらっと流すような高遠の言葉に名前は目を輝かせた。

「高遠君そんなにクラスの皆の事見てるんだね!!凄い!!」

「別に…名字さんはたまに声を掛けてくるから気になっただけだよ」

「それは、私に興味を持ってくれたって自惚れてもいいのかな?」

「…好きにして」

それが、確か名前と付き合うきっかけになったと思う。
それから言葉を交わす回数が増え、マジックを見せる事もあった。
何をしても嬉しそうで楽しそうな名前にいつからか今まで感じた事のない気持ちが芽生えた。

(これが…好きって事なのかな)

自身の気持ちに気付いた高遠は、その年の夏名前に告白をして付き合い始めた。

「あー!もうこれ以上書く事ないからいいよね?」

「自分がそれでいいと思うならいいんじゃない?提出しておいでよ。待ってるから」

思い出に浸っていた高遠は、名前の声でハッと我に返る。
目の前の彼女はもう疲れた…と言わんばかりに日誌を乱暴に閉じると勢いよく立ち上がる。

「ごめんね遅くなって!光の速さで提出してくるから待ってて!!」

「…光の速さは無理でしょ。転ばないように気をつけて」

「私を誰だと思っているのだね!じゃあ、行って来る〜!」

名前は元気よくそう言うと、職員室へと早足で行ってしまった。
ここで走らないのは恐らく先日廊下を走って先生に叱られたせいだろうと高遠は思った。
名前といると色んなことがあり飽きなくていい。

「表情がころころ変わって面白い…」

高遠は誰もいなくなった教室でまたフッと笑みを溢した。
( *前 │ 表紙次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -