恋というものは、砂糖で出来ている様に甘い。
先日、長年の夢であったパティシエい見習いという立場ながらなる事が出来た。
なかなか自分の作品を作ることは出来ないが、今は先輩たちに少しでも近づけるよう頑張っている。
たまに練習で作ってみるが、やはり先輩方の様に上手くはいかない。
失敗した作品を大量に家に持ち帰り遅めのお茶会が始まった。

隣で優雅に紅茶を飲みながら英字新聞を読みふける彼にそっと体をくっつけると、新聞を読む手が止まり優しい顔がこちらを向いた。

「どうしましたか?」

「んー…落ち着くなぁって」

「そうですか。それは良かった」

新聞を捲って、名前の隣に座る名前は今日作ったロールケーキの失敗作を一口含む。
出会った頃は、“甘いものは苦手だ”と言っていた高遠だが、毎日失敗作を持って帰るようになると紅茶をいれそれを食べてくれる様になった。

「美味しい…?」

「ええ。形は如何せんよろしくない様ですが、味は問題ありません。名前も食べますか?」

「うん」

高遠の淹れてくれた紅茶を飲みながらそう言えば、ロールケーキを一口分取り口元に運んでくれた。
ぱくっとそれを口に含むと、程よい甘さが口いっぱいに広がる。
自画自賛だと言われるかもしれないが、味なら先輩方にも劣らないんじゃないかと思ってしまう。

「美味しいでしょう?」

「うん。でも、もう少し甘くてもいいかも…」

名前の言葉に、高遠はフッと笑みをこぼし新聞をテーブルに置いた。
ロールケーキの乗った皿を持つと、親鳥が雛に餌を与えるかの様に名前の口元にロールケーキを運ぶ。

「私はこれぐらいで十分甘いと思うのですが…」

「女の子はね、とっても甘いのが好きなんです。紅茶だって苦いより甘い方が好きだし」

「そういう物なんですね」

不思議そうな顔をしながら、高遠はケーキを名前に食べさせ空になった皿をテーブルに置くと名前の肩に腕を回し自分の方へ抱き寄せた。
抱き締められる度に、華奢な割りにしっかりと筋肉はついているんだな…と思ってしまう。
昔体重を聞いたら50kgそこそこしかないと言っていたのをふと思い出した。
身長は結構あるのに、まるで女性の様な体重に名前はうっと言葉を詰まらせたのを思い出す。
そんな事を考えていると、高遠は空いた手で名前の手を取り目の高さまで持ち上げる。

「名前の手は、魔法の手なんですね」

「え?何ですかそれ?」

不思議そうに顔を上げれば、高遠は優しく微笑んだ。

「だって、この手からあんなに甘いお菓子が出来るわけでしょう?私には到底出来そうもありません」

「何言ってるんですか、だったら高遠さんだって!マジシャンとしてずいぶん有名になったじゃないですか。初めて高遠さんのマジック見た時は、本当に魔法使いなのかなって思ってびっくりしましたよ!」

「そんな風に言われると照れますね…」

照れた様に頬を染める高遠に、名前は自分まで恥かしくなって俯く。
高遠のマジックを最初に見た時は、まるで魔法の世界にでも迷い込んだのかと思ってしまった。
目を奪う鮮やかなマジックの数々。
時に、ハラハラとさせられたり観客をあっと言わせるその姿は幼い頃に憧れた魔法使いそのものだった。

「私も、早く一人前になりたいな〜」

見習いと言っても、今は雑用ばかりで実際にお店に出せる様な商品は作れない。
それでもいつか一人前になって、たくさんの人が笑顔になってくれる様なお菓子を作りたい。
高遠は、名前の手にそっと指を絡める。
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