忙しい毎日から解放された、とある休日。
明智は、自身のマンションに恋人である名字名前を呼んでいた。
付き合って数年経つが、自身の仕事が忙しくなかなか構ってあげられない恋人の為に、せめて休日は二人で過ごそうと考えていた。
「こんにちは、お邪魔します」
「いらっしゃい、名前。会いたかったですよ」
「あ、ありがとうございます。私も……」
月並みな言葉だと言われるかもしれない。
だが、名前と居る時はあまり気の効いた言葉が浮かばない。
金田一にも言われたが、名前の前ではいつもの余裕が出せない。
(それって、素の自分で居られるって事じゃね?)
金田一の言葉に、気付かされるなど不服だが認めざるを得ない。
「健悟さん……どうしました?疲れてます?」
ボーッと考え事をしていた明智を心配して、名前は明智の顔を覗き込んだ。
心配してくれた事は嬉しかった、だが、名前に心配させてしまった事に申し訳なさを感じて明智は名前をぎゅっと抱き締めた。
「け、健悟さん?大丈夫ですか?」
「すみません……情けないところをお見せして」
明智の言葉に、名前は首を横に振ると明智の背中に腕を回した。
身長差があり、胸元に顔を寄せる形になる名前は、恥ずかしそうにポツポツと呟いた。
「情けなくなんかないです!」
「……名前?」
「……健悟さんは、いつもキラキラしてて!かっこよくて!頭もいいし、何で私なんかと付き合ってるのか分からない位で……その…えっと!」
抱き締められ緊張しているのもあり、名前は何が言いたいかもよく分からない状態で「えっと!えっと!」と捲し立てる。
「名前、とりあえず落ち着きましょう?」
「は、ふぁい!」
「お茶を入れますので、ソファに座っていてください」
明智は、名残惜しげに名前の体を離すとキッチンに向かい紅茶を淹れる。
以前、名前が友人と行ったカフェで飲んだ紅茶が美味しかったから。
と、同じような茶葉を買ってきた。
名前が来る時は必ずこの紅茶を淹れる様にしている。
紅茶を淹れている間に、お菓子でも……と戸棚を探していると、座っていた筈の名前がキッチンへと近付いてきた。
「あ、あの………お口に合うかは分からないですが、クッキー焼いてきました」
「名前が、作ってくれたのですか?」
驚く明智に、名前は肯定を示すように首を振った。
明智と付き合うまでは、お菓子なんて作ったことなかった。
前にそう話していたのを思いだし、口元が緩んでいた。