深い夜の礼拝堂、逃げ惑う君を簡単に捕まえた。
邪魔な布を切り裂いて、白い肌を曝け出す。
泣き叫ぶ君はとても綺麗……
さぁ、一緒に堕ちて行こう?
君の信じる神の前でどこまでも二人一緒に……



北海道から戻った名前は、非番の日を利用して近くの教会へ足を運ぶようになった。
今日も、仕事が終わり教会へ向かうと優しげな神父が名前を出迎えた。

「おや、今日もいらしたのですか?」

「こんばんは、神父様。少し早く仕事が片付いたので…」

「何か、不安ごとでもあるのですか?」

神父の言葉に、名前は胸元で両手を握り締めた。
この告白はしてはいけない…それでも、自分一人の胸にしまっておく事は無理だと感じていた。
神父は、名前に近付くとそっと肩に触れた。

「無理にとは言いませんよ。神は全てを知っていらっしゃる」

「神父様…私は、罪を犯しているのです」

「…お話を伺いましょう。こちらへ」

神父は、名前の手を取ると礼拝堂へと招いた。
裁断の前の椅子に名前を座らせると、自身も隣に腰を降ろした。
名前は震える手を膝の上でぎゅっと握りぽつぽつと語り始める。

「神父様…人を愛するという事は罪になるのでしょうか?それがもし…恐ろしい殺人を犯した者だとしたら」

「…あなたは、どう思いますか?」

「私は、正義を行う者として彼を捕まえたいと思っているのです。・・・でも、彼の事が忘れられないんです。触れたいと、触れられたいと願ってしまう!傍に居たいと願ってしまうんです…」

名前の告白を、神父はただ黙って聞いていた。
膝の上で握られた手は震えていて、爪が食い込むほど強く握られる。
手のひらに爪が食い込まない様、そっと名前の手を握ると名前はつぶらな瞳から大粒の涙を流した。

「よく話して下さいましたね…辛かったでしょう」

神父はそう言うと、名前の手を強く握る。
心のつかえを吐き出した名前は声を殺して泣きじゃくる。
神父は、そっと名前を抱きしめると優しく背中をさすった。

「大丈夫…神もあなたの罪を赦すでしょう」

神父は、名前が落ち着くまで背を擦った。
暫く泣きじゃくり、名前が落ち着いた頃にはすっかりと辺りは暗くなっていた。
名前は呼吸を落ち着け、涙を拭いながら神父の腕から離れた。

「申し訳ありません…取り乱してしまって」

「良いのですよ。あなたの声はしっかりと届きましたから…」

「ありがとうございます。私、やっぱり彼に罪を償わせます。復讐だけが全てじゃないって、あなたを大切に思ってる人はいるって分かって欲しいから…」

名前の言葉に、神父は口元に笑みを浮かべ親指で名前の涙を拭った。
涙を拭った手はそのまま頬を撫で名前の口元へと降りていく。
ゆっくりと唇をなぞった手は顎にかかり少し上を向かせる。
名前は背中にぞくりと嫌な空気を感じた。

「……神父……さま?」

「残念ながら…私は【赦し】を請うつもりなどありませんよ、名前…」

「……っ!…高遠…さん?」

自身の首元に手を掛けた神父は、盛大な音を立て何かを剥ぎ取る。
晒された顔に、名前は目を見開いた。
そこにいたのは【地獄の傀儡師】と呼ばれた殺人犯…高遠遥一の姿があった。

「…高遠さん…どうして?」

「どうして?ああ、嬉しくて震えているのですか。先程、まさか私への熱い思いを打ち明けて戴けるとは思ってもみませんでしたよ。まったく、可愛い人だ」

高遠は、そう言うと名前に唇を触れさせる。
触れるだけの口付けは、だんだんと深くなり割り込ませた舌が口内を犯していく。
静かな礼拝堂に響く淫らな音に、名前はぎゅっと目を瞑り高遠を突き飛ばす。

「…やっ!」

「…おやおや。随分と照れ隠しが過ぎる様で。そんな所も可愛いのですがね…名前」

高遠が伸ばした手を名前は振り払い、胸元で両手を握り締める。
再び涙が溢れ出すその瞳は、高遠から少し逸らした所を見つめていた。

「わ、私は…あなたが好き。でも、神様はあなたの罪を赦してはくださらない!」

「私は無念の死を遂げた死者の声を聞く地獄の使い。神の赦しなど必要ない…名前がいればそれでいい」

「そんなの間違ってる!」

強く言い放つ名前に、高遠はやれやれと呟くと距離を詰め、腕を掴み裁断の方へと突き飛ばす。
倒れこみ痛みに顔を歪める名前の上に、高遠は馬乗りになると服に手を掛け引き裂いていく。

「や…やめて下さい!」

「あなたの信じる神の御前だからですか?どんなに泣いても叫んでも、神はあなたを救いはしてくれませんよ?」

「…っ!!」

名前は必死に高遠の腕から逃れると、教会の入り口に向け走った。
途中、足がもつれ転んでしまい簡単に高遠に捕らえられてしまう。

「いやっ!…いや!!」

「私を愛していると言うのなら、一緒に堕ちて下さい。どこまでも…深い闇の中へ」

君は私には眩しすぎて、とても自由な人だった。
手を離したらきっとどこかへ行ってしまう。
二度と戻ってきてくれないかもしれない
だったら…堕ちてしまうしかないじゃないか
二度と這い上がれない、暗くて深い場所へ

神の下で禁忌を
(あなたとならば禁忌を犯す事すらも厭わない)

お題お借りしました
(確かに恋だった様)
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