それが切っ掛けで頻繁にマジックショーをやりに来たり、迷惑だと言っているにも個人的に会いに来たりとそんな日が続いていた。
会うたびに、迷惑だと思っていた気持ちがだんだん薄れていく気がしてより高遠を避ける様になった。
それでも、簡単に諦める訳はなく…今に至っている。

「何を瞑想しているのですか?」

「別に…お茶」

「仕方のない子ですね」

ふいに声をかけられた名前が顔を上げると、ティーセットと焼き菓子を持った高遠と目が合った。
目が合ってドキッとした名前は高遠に表情を気付かれる前に顔を逸らしお茶をねだって手を出した。

高遠は、ティーセットをテーブルへ下ろすと紅茶をカップに入れ焼き菓子と共に名前の前に出した。

「ありがと」

「どういたしまして。ストレートで構いませんか?」

「いい。お菓子あるから砂糖も入れない」

「熱いので気を付けてくださいね」

紅茶を受け取った名前は、紅茶のいい香りに目を閉じた。
普段、紅茶を入れる事なんてあまりないが、たまに入れるティーパックとは違って今日はとてもいい香りがする。

「これ、いつものティーパックのやつ?」

「いえ。私のおすすめの茶葉をブレンドしてみました」

「へぇ…それ、大丈夫?」

「飲んでみれば分かりますよ」

高遠に言われ、渋々口を付けた名前は目を見開いた。
いつも苦いだけだと思っていたがいつもより飲みやすく香りも申し分なかった。
素直に美味しいなんて言える筈もなく、名前はそのまま焼き菓子にかぶりついた。

「美味しいですか?」

「…まぁまぁ」

「そうですか」

「お菓子甘すぎる」

「じゃあ、次はもっと甘さ控えめなのを用意してきますね」

高遠の言葉に、名前はよきにはからえ!と言わんばかりに首を縦に振った。
名前の様子に、高遠は紅茶に口を付けながら小さく呟いた。

「諸事情ありまして、ここに私の荷物を置きたいのですが宜しいですか?」

「好きにすれば」

高遠の言葉を話半分に聞いていた名前、急に変わった高遠の表情に不審そうな顔をする。
どこか驚いた様な嬉しそうな顔をする高遠が少し気持ち悪いというか…

「何その顔」

「いえ。名前が一緒に住むのを了承してくれるとは思わなくて」

「は?誰もそんな事…」

「先程好きにすればいいと言ったじゃありませんか」

先程自分が言った言葉を思いだした名前は大げさに溜息を吐いて頭を抱えた。

「確かに言ったけど…一緒に住むとか。てかアンタ犯罪者でしょ!」

「大丈夫ですよ。名前に迷惑はかけません。なら、構いませんよね?」

今までにないくらい爽やかな笑顔を見せる高遠に、名前は頭を抱えたまま再び息を吐いた。
いくら言っても引かないだろう。
そう考えた名前は仕方ないと言わんばかりに了承を口にした。

「どうせダメって言っても来るだろ?ならもうあきらめるよ」

「では、そのまま私と結婚しますか」

「それは無理」

冷たく言い放つ言葉に、高遠は“今はまだ”と呟いた。
ありきたりな言葉はいらない
(まったく、素直じゃない人だ)
(女々しい男は嫌われるって(別にドキドキなんてしてないから!))
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