それから、二人は何度も公園での逢瀬を重ねた。
名前しか知らない存在…そんな二人が深い中になるのには時間が掛からなかった。
名前は一途に高遠を想い、高遠もそんな名前に惹かれていった。
なかなか会うことの出来ない日が続き、名前は寂しい日々を送っていた。
そんな名前に気付いた高遠は、ある日一つの約束をした。
毎朝、名前の部屋の横にある窓を開けて欲しいと。そこに会えない代わりに贈り物を置いて行くと。
名前は、高遠との約束通り毎日早く起きてバルコニーを見た。
そこには真っ赤な薔薇が一輪置かれていて、名前はそれだけで幸せな気持ちを感じていた。

珍しく、小さなオルゴールが届けれられたその日は贈り物と共にメッセージカードが置かれていた。
綺麗な文字で“会いに行く”と書かれたカードを握りしめ名前はそれに唇を触れさせた。

夕食を終えた名前は、静かに勉強がしたいから絶対に部屋に入らないで欲しいと告げると、バルコニーに立った。
温かい格好をしてはいるものの、夜風というのはとても冷たくて両手をすり合わせた。
“早く会いたい”
その思いだけが広がり、手に息を吹きかけ目を閉じた瞬間、背中にぬくもりと少しの重みを感じた。
目を開くと、男物のコートが肩に掛けられていた。
微かに香るその香は、高遠が好きな薔薇の花の香だった。

「まったく、こんな所で何をしているのです。風邪を引きますよ?」

「高遠さん…会いたかった!!」

「泣かせるつもりなどなかったのですが…私も会いたかったですよ、名前」

名前の瞳に浮かぶ涙を拭った高遠は、瞼に唇を触れさせた。
高遠のぬくもりを感じた名前は幸せを噛みしめる様に目を閉じた。

「せっかくお会いできたので、ゆっくりと名前を感じたいのですが…」

「もう、行かなければならないのですね」

「ええ」

名前の言葉を聞いた高遠は、覚悟をしていたある思いを胸に抱いた。
きっと名前はすべてを知っている。自分が地獄の傀儡師という犯罪者だという事を。
綺麗な彼女の傍に自分は相応しくない
そう言い聞かせ名前から離れようとした瞬間、名前は高遠の手を掴んだ。

「私は…世間知らずな子供かもしれません!でも…あなたの帰りをお待ちしております。たとえ何年かかったとしても…この場所で、待っています!」

「名前…」

「あなたが誰であろうと、私は高遠さんが好きです。高遠さんが私を愛してくれた事も忘れません!!」

だから、どうか帰ってきて…そう言おうとした名前の言葉を塞ぐように高遠は名前を抱きしめ唇を触れさせた。
冷たかったそれは、二人の熱で次第に熱く変わっていった。
唇を離した高遠は、初めて会った時と同じ様に小さく笑みを浮かべると名前を腕に強く抱きしめた。

「いつか、必ずあなたを奪いに来ます。それまで待っていてください」

「高遠さん…愛しています。誰よりも」

「私もですよ…」

そう言って、二人はもう一度重なった。

まるで歌劇の様な恋でした
(必ず、必ず帰って来て下さいね)
(こんなに可愛い名前を置いていく私を許して下さいね)

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