会場を走り抜け、エレベーターで向かった先はホテルの最上階。
高級感溢れるその部屋は庶民の名前には縁のない【スイートルーム】というのだろう。慣れないヒールで走らされた名前は、部屋に着くと扉に凭れ掛り肩で息をした。

「大丈夫ですか?名前さん…」

「…だいじょぶ…ど、して…名前」

マジックを披露していた時も、友人といた時も名乗った覚えはない。
たとえ、会場で聞いていたとしても殆ど近くにはいなかった筈だ。
名前は背中にぴりぴりとした嫌な空気を感じ、ドアノブに手を掛けた。

「もう気付いているのではないですか?…名前」

「…っ!」

名前が部屋を出ようとドアを開けようとしたその時、腕を掴まれ抱き寄せられる。
ゆっくりと仮面が外され、男の素顔が晒された。
仮面の下の素顔…指名手配中の殺人犯、高遠遙一は不敵に微笑んだ。

「まさか、こんな所でお会いするとは。やはり、私達は運命の赤い糸で結ばれているらしい。糸…いや、薔薇ですかね」

「は、離してください!」

高遠の腕から逃れようともがくが、びくともしない。
せめてドアの外へ出られれば…ドアの方へ顔を向ける名前に、高遠は耳元で囁いた。

「残念ながら、この部屋には特殊な仕掛けが施してありましてね。ロックされたら明日の朝まではどんな事をしても開きません」

「そんな…!」

「朝までは二人きりなのですから…ゆっくりと、堪能するとしましょう。二人だけの時間を……」

高遠は、名前を横抱きに抱き上げると、寝室へと向かいベッドの上に下ろした。
スプリングが二人分の重みでギシッと軋んだ。
寝室には、オーダーしたのか元々置いてあった物か…大きな花瓶に紅色の薔薇と赤い薔薇のつぼみ、ピンク色の薔薇が飾られていた。
じりじりと追い詰められ、背中に壁を感じた名前は震えながら硬く目を閉じる。
高遠は、震える名前の頬にそっと手を伸ばし輪郭をなぞるように頬、鼻、最後に唇を指でなぞった。

「……高遠さん?」

「…しっ!名前の可愛い声は、後でゆっくり堪能させて貰いますから…今は!」

そう言って、高遠は親指で唇を撫でながら名前を見つめた。
冷たく思えたその瞳はが、どこか熱く何かを伝える様に思えて名前は目を逸らしたいのに、高遠から目が離せなくなった。
暫く見つめあい、ゆっくりと高遠の顔が近付くのに気付いた名前は自然と目を瞑っていた。
唇が触れ合い、微かな抵抗を示す様に胸を押す名前の手に指を絡めた高遠は、名前の髪を解き体をベッドに横たわらせる。

白いシーツに散らばる髪が、「どうして」と紡ぐ名前の声が、口付けで乱れた名前の吐息が…何もかもが扇情的で、高遠の全てを狂わせていく。
名前が恥ずかしげに顔を逸らしたことを引き金に
言葉を掛けることもなく、覆いかぶさり口付けた。

声帯以外で語る愛
(【愛してる】なんて言葉で表せない程に、私の想いは深くて重い)
****
紅色の薔薇 【死ぬほど恋い焦がれています】
赤い薔薇の蕾 【純潔、あなたに尽くします、純粋な愛、愛の告白】
ブライダルピンクの薔薇 【愛している】

*前表紙 │ 次# )
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -