鏡の前に座り込み、脱ぎ散らかした洋服を横目に見ながら明日会う予定の彼の名前を呟いた。
彼が指名手配中の殺人犯だとは、兄に聞いて知っている。
それでも、私は思い出の中の優しくも可愛い高遠くんを忘れることが出来ない。
思い出に浸る名前の耳に不吉な音が響いた。
「名前、高遠とは……まさか、高遠遙一の事ではないですよね?あいつと付き合ってるんですか?!」
「お、お兄ちゃん!なに勝手に聴いてるのよ!」
「どうなんですか!名前!」
声のする方へ向くと、そこには険しい顔をする明智の姿があった。
名前は、立ち上がり明智の方へ向かうと同じように表情を強張らせ明智に掴み掛かる。
「もう!子供じゃないんだから放っておいて!私が誰と付き合おうと私の勝手じゃない!」
「何が勝手です!可愛い妹を心配しているんです!
」
明智は、掴みかかった名前の両手を掴んだ。
二人は今までに見せたことがない様な顔でお互いを睨みながら攻防を続ける。
お互いに一歩も引こうとはせず言葉をぶつけ合う。
その姿はまるで、子供同士の喧嘩だ。
「だいたい、あなたは男を見る目が無さすぎるんです!選ぶなら私の様な男にしなさい!」
「お兄ちゃんは、そろそろ妹離れしてよ!恥ずかしいのよシスコン!ロスへ帰れ!!!」
「私は日本人です!!」
意味の分からない言い争いを一時間ほど続けて、お互い息を切らせれば母が仲を取り持つように紅茶を淹れてきてくれた。
「二人とも、その辺にしておきなさいね。お茶淹れたから、二人で仲良くいただきなさいね」
そう言って、部屋を後にした母に明智と名前は顔を見合わせてその場に座り込んだ。
「…仕方ありませんね。一時休戦にしましょう」
「うん。……お兄ちゃん」
「なんですか?」
「心配してくれてありがとう。でも、私にとって高遠くんは誰よりも大切だから」
そう言って、床に座って紅茶を飲めば隣で呆れたような溜め息が聞こえた。
「名前の幸せを守るのが、私の役目です。今回は見逃します。しかし、次に高遠と会った時はヤツを逮捕します!」
「……分かってる」
そう言って紅茶を含めば、何だか少し渋味が強いような気がした。
「まあ、私の目の黒いうちは、名前を嫁にはいかせませんがね」
「ちょ!ちょっと嫁って飛躍しすぎ!そしてシスコンもいい加減にして!」
「可愛い名前の頼みでもそれは無理です」
妹離れはお早めに(そんなんだから、カッコイイのに彼女出来ないんだよ!)
(名前がいれば、彼女など必要ありません)