「あ〜美味しかった。健悟さん、ご馳走様です」

「いえ。お気に召して戴けて良かったです」

明智は、そう言って微笑むと高遠の方を見た。
会ったばかりでよく分からないが少し苦手だ。高遠は内心そう思っていた為表情が自然と強張ってしまう。

「どうかしましたか?」

「いえ、満足戴けましたか?」

「ええ。とてもいい所でした。懐かしい味がしましたし」

だんだん小さくなる声に、明智は苦笑しながらそれは良かったと告げた。
全てを見透かされている様な気がして悪態でもついてやりたい気持ちになったが、そんな訳にもいかず高遠は荷物を持つと名前の傍に寄った。

「名前、帰ろう」

「そうだね。健悟さん、今日はありがとうございました」

「いえ。送っていきましょうか?」

明智の申し出を受けようとする名前の言葉を高遠は遮った。

「いえ。少し歩いてタクシーでも拾います。今日はありがとうございました。名前帰るよ」

「ちょ…ちょっと遙一!健悟さん、また連絡します」

高遠に手を引かれ、名前は引きずられる様に明智の元を去った。
残された明智は、フッと笑みを溢しその姿を見送った。

「ちょっと遙一!どうしたのよ…そんな不機嫌になって!」

「そりゃ不機嫌にもなるでしょう。いつの間にあんな男と…」

「あんなって失礼ね!健悟さんは28歳の若さで警視になった凄い人なのよ!紳士的だし綺麗な顔してるしモテモテなんだから!」

名前の言葉に、高遠はカッとなって足を止め振り返る。
急に振り返った高遠に名前は驚き同じ様に足を止めた。

「だから嫌なんでしょう!あんな男に名前を幸せに出来る筈無い!」

「健悟さんの事何も知らない癖にそんな事言わないで!!」

「分かってないのはそっちだろう!僕は…僕は、ずっと名前の事が…」

誰よりも好きだった…そう言おうとした高遠の頬を名前がつねる。
昔より痩せてつまむ肉がないと嘆きながらも横に引っ張る名前に高遠はうっすらと涙を浮かべる。
ようやく頬を離され、両手で頬をさする高遠に名前は顔を近づける。

「心配しなくても、私はずっと遙一のお姉ちゃんだから。遙一の事は大切だし大好きよ。でも、私だって恋も結婚もしたいの!いつまでも遙一の事ばっかり見てるわけにはいかないの!」

「名前…」

高遠は悔しくなって拳を握った。
そんな高遠に、名前も言いすぎたと言わんばかりに息を吐いてその手に触れる。

「ごめん、言いすぎた。でも健悟さんの悪口を言うならいくら遙一でも許さないから」

「…僕は謝りませんから」

「ほんっとうに可愛くない」

「それはお互い様です」

暫く見つめあい、二人は思わず噴出した。

「そうよね。あのお父さんの子だしね」

「一緒にしないでください。僕はあんな男を父とは認めません」

「あーこれだからマザコンは…」

「何か言いましたか?」

高遠は荷物を持つと再び歩き始める。
名前も高遠の隣に走りよって並んで歩く。
タクシーを拾うまでの間、二人は手を繋いで大通りへと向かった。

シスコンじゃありませんただ大切なだけです!
(遙一は本当に昔から変わらないわよね。彼女が出来たら昔怖くて一人でトイレも行けなかった話しちゃおう)
(あんまり調子に乗ると明智さんに名前の寝言を録音した物を送りつけますよ)
(すみません私が愚かでした申し訳ありません)

→あとがき
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