(逃げなければ!)

頭では分かってても、名前はその場から動けずにいた。
この男は、赤尾ではない。いつも冷たいように見せておきながらさり気なく気遣ってくれたり困った時に助けてくれる彼とは違う。
そう思っている筈なのに、名前は高遠から目を離せずに居た。

「どうしました?逃げないんですか?」

「…赤尾先生」

「今は、高遠と呼んでいただきたいのですが名前の好きな様に呼んで下さい。立てますか?」

高遠は、そう言って近付くと名前に手を差し出した。
差し伸べられた手を掴み立ち上がるとその細い腕に抱き寄せられ名前は驚き目を見開いた。

「え!あの…!」

「実は、一目見た時から名前が気になっていました。名前の事を考えると、今まで以上の芸術性を帯びた完全犯罪が浮かびそうです」

「その例えは…いやです」

「クスッ!確かに。少し物騒でしたね。名前はどうなんですか?私の腕から逃げなくてもいいのですか?」

抱き締めながらそう囁く高遠に、名前は今の状況を思い出した様に胸を押そうとするが拒む事が出来ず躊躇うように高遠の服を握った。
高遠は、そんな名前の様子に口元を緩める。

「仕方ないじゃないですか…赤尾先生が、こんなに素敵な人だなんて思わなくて!指名手配されてるって分かってるけど…ひ、一目惚れしちゃったんですもん!!」

「それは、私の想いに応えてくださるという事で宜しいですか?」

高遠の言葉に、名前は抱き締められた状態で小さく頷いた。

「ありがとうございます。普通とは違う生活になりますので、不自由な思いをさせるかもしれませんが、世界で一番幸せにしてみせますよ」

「…凄い自信ですね。でも…嬉しいです。ありがとうございます」

微笑む名前を腕から離し、頬を撫でた高遠は名前に唇を触れさせた。
ほんのり甘くどこか苦い口付けに、名前はこれからの未来を想像しながら高遠の首に腕を回し深く口付けた。

最初に手を差し伸べたのはあなただった。
その手を取ったのは私だった。
一目惚れの恋
世間的に許されてはいけない犯罪者のあなた
それでもいいと思ったの
二人でいられるなら、それが幸せ
私は今日から未来永劫あなたの共犯者

共犯者
(あなたと二人なら罪に堕ちるのも悪くない)
*前表紙次#
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -