唇を離した二人は、暫く見つめあい名前がそれに耐え切れなくなり視線を逸らす。
高遠は再び名前を腕に抱き締めると耳元へ顔を寄せそっと囁いた。

「そろそろ風が冷たくなってきました。部屋へ戻りましょうか」

「…はい」

小さく頷いて、分かったフリをする。
高遠の温もりが離れてしまうのが悲しくて、名前は震える手でギュッと高遠の服を握り胸元に顔を埋めた。

「おやおや、今日は随分と甘えん坊ですね。私としてはそれも嬉しいですが…このまま風邪を引かれても困ります。戻りましょう。少し我慢してくれれば部屋でゆっくり抱き締めて差し上げますから」

「そんな…つもりでは…」

そう言いながらも手を離せない名前に、高遠はやれやれと呟き名前の体を横抱きに抱き上げた。

「ひゃっ!!」

「随分と細いですが、ちゃんと食べているんですか?」

「そそそそんなことないです!高遠さんだって細いじゃないですか!!」

「私はもう少し柔らかい方が抱き心地がよくて好きですよ。無理にとは言いませんが…まあ、胸にはしっかりと栄養がいっていて何よりですが」

高遠の言葉に、名前は真っ赤になって両手を外し胸元を押さえた。
昔はぺたんこなのがコンプレックスで牛乳を飲んだり必死になっていたが、いざ大きくなるとそれはそれでコンプレックスになるあたり人間はワガママだなと思う。
高遠は、名前を抱いたまま部屋へと戻りベッドの上に名前を下ろした。

「高遠さん、ここ…」

「ええ。私の部屋ですよ。これを整理したいと思っていましたから」

そう言って、高遠は壁に先程作成した見取り図を貼っていく。
名前はベッドから降りると高遠の元へ近付き後ろから抱きつき背中に顔をつける。

「おや、どうしました?私がいないと不安ですか?」

意地悪く言う高遠に、名前は抱き締める手に力を込める。
獄門塾で別れて以来日に日に高遠の存在が大きくなり、それに加えローゼンクロイツのあの手紙が名前の不安を掻き立てた。

「怖いんです。高遠さんにもう二度と会えなくなってしまいそうで…」

「名前…」

「ずるい事を言ってるのは分かってるんです。あなたのやる事に賛同する事は出来ない。でも…会えないと思うと、胸が苦しいんです。誰といても何か足りなくて…気がついたら高遠さんの事を考えていて…あなたによく似た人や声を探していて…」

背中に感じる冷たい感触に、高遠はそっと名前の手に己の手を重ねた。
名前はギュッと高遠を抱き締め涙を溢しながら言葉をつむぐ。

「高遠さんの手を取る事を躊躇ってしまうのに…あなたが他の誰かの元へ行ってしまうと思うと…それを考えただけでつぶれてしまいそうなんです」

「…名前」

高遠は優しく声を掛け手を解くと振り返り頬を撫で屈み込んで名前の涙を舐め取った。ざらついた舌の感触にぞくっと体を震わせる名前を高遠は抱き締めベッドへと倒れこんだ。

「初めて会ったあの時から、私は名前しかこの目に映していない。今までもこれからも…私が欲しいと思うのは名前だけです。だから、そんなに泣かなくていい」

「高遠さん…私…あなたの事が…」

高遠に抱き締められ、涙を溢す名前の口を塞ぐように高遠は優しく口付ける。
互いに求め合うように下を絡める口付けに、名前の瞳からは熱い涙が零れ落ちた。

すごく下らないことを聞きますよ。あなた、僕のことどう思ってます?
(正直に言うと、あなたが私を愛してくれないのではないかと不安でした。気持ちを確認できてホッとしています)
(す、すみません。なかなか素直になれなくて…でも、私は高遠さんが好きです)

(タイトルはこちらのお題をお借りしました)
TOY
→あとがき
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