ローゼンクロイツなる人物から、薔薇の館へ招かれた名前は薔薇十字館で再会した高遠と共に館の捜索に当たっていた。
名前と職業を偽った高遠は名前を自分の婚約者だと紹介した為、怪しまれない様に行動を共にする事となった。
高遠は見取り図に書き込みをしながら館の構造などを調べていく。
「それにしても、まさか名前まで招待を受けているとは思いませんでした。薔薇は苦手でしょう?」
「正直、あまり好きではありません。でも…」
招待状には、自分が来なかった場合高遠を殺すと書かれていた。
名前はそれが気がかりで両手をギュッと握り締めた。
「ローゼンクロイツなる人物に何か言われましたか?」
「いえ…そんな事は」
俯きながら答える名前に、高遠はフッと息を吐いた。
「相変わらず、素直じゃない人だ」
「…これでも素直な方だと自負しているのですが」
名前の言葉に、高遠は笑みを溢すとそっと手を差し出した。
「館の中は見回りました。次は外を見に行きます。薔薇の棘は危険ですから…私から手を離さない様に気をつけてください」
「け、結構です!棘で怪我をするなんてドジは踏みません」
名前はそう告げると高遠を置いてずんずんと歩き出した。
高遠は緊張を隠しきれない名前に愛しさを感じ名前の背中を追った。
庭園へと出てみると、来た時は塞がれて居なかった薔薇のアーチが入り口を塞いでおり名前は目を見開いた。
「高遠さん、これは…」
「どうやら、ローゼンクロイツは我々を帰す気はなさそうですね。ケータイも圏外の様ですし」
ポケットからスマホを取り出した高遠は、表示を見て小さく息を吐いた。
名前も同じ様にスマホを見て繋がらない事を確認するとそれをポケットにしまい苦々しくアーチを見つめた。
「こんなに綺麗なのに…棘だらけなんて」
「薔薇の棘は危険ですよ。名前の綺麗な手を傷めるといけない…!」
高遠は、薔薇のアーチに手を伸ばした名前の腕を掴み自身の腕へ抱きいれると手の中から薔薇の花を取り出して見せそっと髪にさした。
「真っ赤な薔薇もいいですが、名前には淡い色が似合いますね」
「た、高遠さん…離してください!」
突然腕に抱きいれられた名前は、恥かしくなり俯いて高遠の胸を押した。
高遠に触れられた手が妙に熱くて、心臓が痛いくらいに鼓動を刻む。
抱き締められ感じる体温や仄かな薔薇の香りに胸が熱くなっていく。
「高遠さん…だめです…」
「本当に嫌なら、この手を振りほどいて逃げればいい。そんなに強く抱いている訳ではないのを分かっているのでしょう?」
「…で、でも…誰かに見られたら、私達が恋人ではないのがバレてしまいます」
「それは、私と“離れたくない”という風に捉えても構いませんか?」
高遠の言葉に、名前は赤く染まった頬を胸元に押し当てた。
普段の素直じゃない名前にしては珍しく自分に甘えてくるような態度に高遠は嬉しさを隠しきれず名前の体をギュッと抱き締めた。
名前も躊躇うように高遠の背中に腕を回す。
もし誰かに見られても、恋人同士なら抱き合っていても不思議じゃない。
寧ろ一方的に抱かれているのを見られれば何かあるのではないかとあらぬ疑いを掛けられ自分が刑事である事がバレるかも知れない。
そう考えた名前は、真っ赤に染まった顔を上げ高遠を見つめると目を閉じた。
いつになく大胆な名前に、高遠は微笑み頬を撫でるとそっと唇を触れさせた。