テーブルに置かれた冷や汗をかいた様な二つのカップアイス。
エアコンの風でなびく黒くて長い髪。
目の前の少女は、声を上げて唸りながら二つのアイスを見比べていた。
高校最後の夏休み、塾から帰ってきた明智は玄関で見慣れない靴を見つけ不思議そうな顔をして家にリビングへ向かった。
「ただいま」
「お、お帰りなさい!」
「あら健悟、早かったのね」
リビングへ入ると、制服姿の少女と母親が出迎えた。
少女に見覚えがあるようなないような…誰だろう?
そう考えていると、少女は小刻みに震えながら声を掛けてきた。
「あ、あの…お久しぶりです。従兄妹の名字名前です」
「ああ。随分大きくなったから分からなかった」
名前が名前を名乗ると、明智はようやく思い出したようにあっ!と声を上げた。
そう言えば、名前がまだうんと小さい頃に母親に連れられて名前と遊びに行った覚えがある。
当時は、母親の背中に隠れて泣きそうになっていた思い出しかないが女の子と言うのは化けるものだ。
目の前に立つ少女に目を奪われた。
「名前ちゃん、あんたと同じ秀央うけるつもりなんですって!偶然会って、つい声掛けちゃった。折角だから勉強見てあげたら?」
「秀央に。まだ時間ある?」
「はい。夏休みだから時間はいっぱいあります。今日は家に誰もいませんし…」
「じゃあ、僕の部屋に来るといい。参考書ならたくさんあるから」
明智の言葉に、名前は目を輝かせて大きく頷いた。
そんな二人を母親は微笑ましく見つめながらおやつにアイス持っていきなさいと手渡した。
二人で明智の部屋に行ってエアコンをつけ涼しくなるのを待つ。
部屋に入った名前は、珍しい様にきょろきょろと辺りを見回していた。
「どうかした?」
「い、いえ!男の人の部屋に入るのって初めてで。凄く綺麗に片付けられてるなぁと思いまして…それに本がいっぱいです」
「毎日掃除するからね。これくらいは普通だと思うよ。適当に座って」
明智に促され、名前は適当に腰を下ろした。
長いスカートが皺にならないように押さえて座る様を見て、ああ女の子なんだなと感じてしまう。
明智も名前に向かい合う様に腰を下ろしじっと名前を見つめた。
(な、何で睨まれているんだろう。私何か失礼なことしたかな…)
名前が内心怯えているなどつゆ知らず、明智はボーっと名前を見つめていた。
ここが家でなく、学校や外だったら明智の憂いを帯びたような表情に見とれる女性で溢れかえる事だろう。
名前は、スカートの上で両手を握り締め明智に声を掛けた。
「あ、あの…アイス、どっちがいいですか?」
「…どっちでもいいけど。名前はどっちがいい?」
「わ、私ですか…」
明智の言葉が予想外だったのか、名前はテーブルに置かれたアイスをじっと見つめた。