品の良さそうな和服の女性に連れられて、長い廊下を歩く。
前を歩く明智の姿を俯きがちに見つめながら名前は慣れない場所に落ち着かずキョロキョロと辺りを見回す。
ドラマでよくありそうな偉い政治家などが訪れそうな高級料亭。
感じる空気も何もかも、やはり落ち着かない。
そんな名前に気付いたように明智は振り返り声をかける。
「どうしました、名前?」
「いえ…。こういう場所に来るのが初めてで、緊張してしまって」
「そんなに緊張しなくても大丈夫です。今夜は、二人きりなのですから」
囁くように言う明智に、名前はうっと声を漏らす。
先を歩く女性は「若いっていいですね〜」と笑いながらそう言った。
お互いに仕事帰りのスーツ姿ではあるが、周りからはどういう風に見られているのか少し気になる。
部屋の前につくと、女性は「お先にお連れ様がお待ちですよ」と襖を開いた。
襖の先に見えた人物に、名前と明智は声を失った。
「おや、遅かったですね。迷子にでもなっていたのですか?」
「た、高遠さん……!」
「高遠……貴様がなぜ!」
驚く二人に、高遠はフッと笑みを漏らし名前に向けて手招きをした。
「そんなところに立っていないで、座ったらどうです?名前は私の隣にどうぞ。明智警視はまあその辺に座ればいいんじゃないですか?」
「あ、明智警視……」
「今さらキャンセルも出来ません。仕方ない。座りましょう。もちろん名前は私の隣で!」
明智は、名前の手を引いて部屋にはいると高遠に向かい合うように腰を下ろした。
名前は明智に手を引かれ隣に腰を下ろすとおろおろとしながら明智と高遠を交互に見た。
「あ、あの……」
「高遠、なぜここにいるんですか?私はあなたを招待した覚えはありませんが!」
明智は、名前の手をぎゅっと握りながら高遠を睨む。
高遠は、そんな明智を冷ややかな目で見つめると立ち上がり名前の隣に腰を下ろした。
「私がどこにいようが、あなたには関係ありません。会いたかったですよ名前…!」
「たたたたた高遠さん……!」
高遠は、手を伸ばし名前の頬を撫でると目を閉じ顔を近づけた。
突然の事に名前が声をあげると、明智が高遠の顔を押さえ付け名前を膝に抱き上げた。
「あ、明智警視!」
「まったく!名前は危機感が無さすぎます!だからこんな童貞にいいように弄ばれるんですよ!」
「私は童貞ではありませんが」
「別に、興味はないので言わなくて結構!」
この二人を同時に相手にするのは疲れる、そう思いながら明智の方を見ると、明智は眉間に皺を寄せながら名前の胸の下に手を回しぎゅっと抱き締め高遠を睨む。
睨み合う二人に、名前は居心地の悪さを感じ沈黙してしまう。
暫く沈黙すると、先程の女性が3人分の料理を運んできた。
「ごゆっくり」
そう言って襖を閉められ、名前は慌てて明智の膝から降りると何もなかったかのように正座をする。
「あ、明智警視!高遠さん!お腹すきましたからひとまずご飯にしましょう!」
「私は、ご飯より名前が食べたいですね」
「こんな料理、食べられる機会なんて二度と無さそうだから嬉しいです!明智警視、ありがとうございます」
高遠の話を無視して、半ば棒読みぎみにそう言えば明智は勝ち誇ったように前髪をかきあげて名前の横に座り両手を合わせた。
「いえ。名前と二人きりで食事ができるならいつでも予約を取りますよ!もちろん、食後には名前を戴いて構いませんよね?」
「あ!美味しそう!高遠さんも早く食べましょう!」
「そうですね。いただきます」
名前は、大人しくなった二人にホッと胸を撫で下ろし食事を始める。
暫くして、日本酒が運ばれてくると女性は、名前にお酌をしてあげてと言わんばかりに目の前に徳利を置いた。
女性が部屋を出た後、名前はまず明智に徳利を向けた。
「明智警視、おつぎします」
「すみません。まるで新婚の気分ですね」
明智は、酒をつぐ名前の肩を抱き寄せて耳元で囁いた。
「け、警視!やめてください……高遠さんが見てます」
「見せ付ければいい。名前、私は幼い頃からずっとあなただけを見てきました」
「あああああ明智警視………?」
明智は、猪口をテーブルに置くと名前の腰を引き寄せ顎にてをかけるとゆっくりと顔を近づける。
徳利を両手で持つ名前は、真剣な明智の表情に頬を赤く染めながら硬直してしまい硬く目を閉じる。
「いつものように“健悟”と呼んでください。名前………」
「明智警視……だ、だめです!」
名前の制止など聞くはずもなく、明智はどんどん顔を近づけていく。