幼い泣き顔


「まあ、まあ、無垢なるぬしは大層可愛らしかったわ。われが弄りたくなるのも無理ない事よ」

後悔にどっぷり浸かった俺にぬけぬけと言う、諸悪の根源。

「てか、刑部の所為だからね!兄さまが未だに“私”を―――弟じゃなくて“妹”だと勘違いしてるの! お陰で毎日女装三昧だよ! ありがとうございました!」
「いやなに、容易い事よ」

ぜんっぜん褒めてないよー!

刑部のばか!
浮遊物!
今度、刑部の輿にいたずらしてやるー!
(無いけど)空き缶結んじゃって、ハネムーンに行くカップルみたいになればいいんだ! 一人で!


大粒の涙で最早顔はぐしゃぐしゃ。刑部の膝も涙が染みてる。体と精神の年齢を足せば兄よりも年上の筈なのに心が体に引きずられて、自分は、ひどく幼い。

最後の文句は声にならずに心で叫んで、漏れるのは言葉にならない嗚咽だった。


でもコレだけはちゃんと言ってやる!と、誓った時――、迷い無い足音がまた一つ近づいてくるのに、刑部は気付いた。


性格を現した、早く無駄の無い足運び。
少しだけ何時もより荒れている様だ。


――幸か不幸か、ガバリと真澄が身を起こした瞬間と足音の持ち主が戸を開けたのは同時で。

ニタァ…と刑部の唇が機嫌よさそうに持ち上がったのに気づかず、後になって真澄は後悔することになる。

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