駆け込み寺的刑部
「ぎょ、う、ぶーーー!!」
バタバタと騒がしい音を立てて廊下を一直線に走る。
腰まで流れる髪はキラキラと銀色の尾を引いて。
はしたなくも緋袴はたくしあげ、薄紫色の着物を大きく翻らせて、淀みない足取りで目的地を目指していた。
――スパーンッ、
「刑部!」
「やれ真澄、いま少し静かに参れぬのか」
「やだ!」
「おお、こわやこわや。般若が居るわ」
「ぐわぁ…!その言い方むかつくー!」
勢いよく戸を開けると大して驚いてもいない顔でおびえてみせる、兄の盟友――大谷吉継。(兄が「刑部、刑部」と呼ぶから最近までそれが名前じゃないと知らなかった)
どうやら武具の手入れをしていたようで、手のひらから放たれた数珠がふわりと宙を旋回し桐箱の中へひとりでに納まっていった。
相変わらずどういう原理でアレは動いてるんだよ。アレ、砲丸並の大きさだよな…っていやいやいや。今はそんな事気にしてる場合じゃなかった!
「われは急に耳が遠くなった「まだ何も言ってないけど」いや参った参ったぁ」
つんとそっぽを向きながら刑部の傍らにどかっと腰を落とす。
「ヒヒッ…、ぬしの要件などわれには見えている」
ちらっと見上げると、包帯から覗く両目が此方を捉え弓形に。口調は淡々としているくせに、瞳はからかいの色が強い。むうぅ…! 勝てる気がしないけど、むっかつくー!
ぼ、僕は怒ってるんだからなー!
「刑部」
「なんだ」
「今日は二件、昨日も二件、その前の日も二件。これが何の数字かわかる?」
「さて、われには見当がつかぬなぁ「僕への求婚の文の数です」……」
「いやこれはメデタ「い訳ないだろー!!」」
モッテモテじゃんお前!(にこっ)みたいなノリはいらないんだよぎょうぶー!!
確かに、確かにね! ね!
誰もが羨む銀髪サラッサラストレート
頬は薄っすら薔薇色・美少女肌
虹彩は金、唇は桜色
凡そ世の乙女が羨むアイテムをしこたま詰め込んだTHE☆美少女!
「――でも、僕は男なんだぁああ!!」
誰もが振り向く石田家の末妹とは僕の事さ!
自分で言ってて涙出て来た。
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