比目の別れ
ネッドとローには両親がいない。
15年前に両親を失くしたそれを不運だと思うも、彼は不幸だとはそれほど思わなかった。
ネッドにはローがいる。
たった二人の兄弟。可愛い弟だ。
それだけでも十分過ぎるほど恵まれていたとネッドは思う。
けれども当時、若いネッドには幼い子供を抱えて暮らしていくだけの力が無かった。それが十分理解できるほどネッドの精神は成熟していた。
生まれた街はお世辞にも治安が良いとは言えない。
時は大海賊時代だなどと呼ばれる時勢。島でも窃盗や強盗、海では幾多の海賊が凌ぎを削っている始末だ。
ローをどこへやっても危険なことに変わりはない。
ならばせめて知り合いにと、頼りにした叔父夫婦にローを託して、ネッドが海兵になると告げたときローはひどく反対した。
離れたくなかったのだ。もちろんネッドだってそう思う。共に暮らしたい。当然だ。
ふたりで話しあって色々と説得を試みたが、理解させることに成功しても弟を納得させることは出来ず仕舞いに終わった。
そのまま、ネッドは故郷を離れた。
“北の海”に厳しい冬が訪れた日の朝。
いつまでも悔しそうに睨んでいたあの目が未だに忘れられない。負けず嫌いのローはあの後、泣いただろうか。
10歳にも満たない弟をひとり預けてきたことにネッドはとても心を痛めた。
そしてそれが一番の不幸だと思った。
ローはきっと私を怨んでいる。
置いて行くくらいなら守るなんていうんじゃねェよ、と言われた言葉が胸をひやりと撫でた。
今ならば分かる。
あの頃の私は自分で思うほど成熟してはいなくて、ただただ幼く、自己満足を押し付けてローを捨てたのだろう。
そう思われていても仕方がない。今更の話だった。
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