わたしを見つけて


肩に積もっていた雪を軽く払い、大股でカウンターへと近寄るネッドの意識からは既に白クマの存在は遠ざかっていた。
珍しいとは思うがあまりジロジロ見るのも悪い。
ネッドの動きに合わせて白クマの首も動いてはいたが、彼は海兵を見たことが無かったのだろうと無言で納得した。

「なにか、身体が温まるものを」

なぜか少し焦った顔をしている店主にそう注文する。
首を傾げるネッドに相手は不味いモノを飲み込んだような表情で、はい、と短く答えた。顔色が悪い。
チラチラとその視線がネッドとどこかを行き来する。

怯えさせてしまったのだろうか。
ああ、もしかして、この小さな街には海兵もあまり立ち寄ることが無かったのだろう。そういう事も稀にある。
早々に立ち去ってあげた方が良さそうだ。
無表情の下で言葉無く。ネッドは納得と理解をしている。

そんなネッドの注意を引いたのはイスを引く大きな音だった。ガタ、と倒れたような音を立てた先は先程の白クマがいる位置である。
僅かに顔を上げたネッドは訝しく思い、肩を引いて少しだけふり返っていた。白クマと、目が合う。

あぐあぐと口を動かす白クマ。
その真っ白な毛並みを覆うオレンジ色の腕が忙しなく上下して、ネッドに見られていることを知ると、あ、と口元を押さえた。
いちいち動きの可愛い生き物だ。口の周りが真っ赤で無ければもっといいけど。
彼の感想などそんなものである。

「キャ、キャプ…う、どうしよう!」
「お、おい、ベポ…! 落ち付け!」

至極もっともな意見である。
どうやら白クマの大きな身体に隠れて見逃していたようだが、この生き物には連れがいたようだ。
キャスケット帽を被った白いツナギにマフラーの男もネッドからすれば随分と慌てているように見受けられる。
ツナギ…この島では一般的な服装なのだろうか。

彼らからネッドの注意が逸れる。
カウンターに戻って来た店主が温かなスープとパンを持ってきた。
やあ、これは美味しそうですね。
ピンクとも赤ともつかない色合いのスープからは大き目にカットされた野菜と肉が顔を出していた。白い湯気が顔にかかる。
なるほど、白クマの口元の赤はこれの所為か。

食事を始めたネッドの背後で気配が二つ動く。
胸に手をあてて何かを隠す仕草でギクシャク移動する大小に、また少しネッドは申し訳ない気持ちになる。

「……あの、海兵さん」
「? はい」
「…今はその、勤務外とか、そういう感じなんですか?」

店主の言葉にネッドは肯定も否定もしない。
何故ならネッドはとっくに海兵では無いからだ。
沈黙したままの彼をどう解釈したのやら店主はほっと息を吐いて、ここで捕り物になったらどうしようかと思ってました、と告げた。
小さな街なので、彼らもここで悪さをした訳ではないので、どうかそういうのは海でやって下さい、と。

「……彼らは、海賊だったのですか」
「ええっ、お気付きでは無かったのですか?!」
「なにぶん私は新世界から戻ったばかりですので、ルーキーであれば知らない顔も勿論あるのです」
「…そうだったんですか。いやあ、おかしいなとは思ってたんですけどね」
「一応お聞きします。彼らは何と言う海賊ですか?」
「ハートの海賊団ですよ」
「え」

店主の言葉に耳を疑った。
それはネッドが探していた海賊団の名だ。
食事の手を止めて顔色を真っ青にさせたネッドに店主が気遣わしげな声で海兵さんと呼び、立ち上がりかけたネッドは、は、と息を吐いて浮かせた腰をまたイスに落とす。

全てを平らげる頃には彼の行くべき場所は決まっていた。

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