どれだけ待てばいいの


「船長」

小さな呼びかけに応えてふるりと睫毛がゆれた。
ドア越しに聞こえるくぐもった声に船長、ともう一度呼ばれると、ローの意識は緩慢に浮上しぼやけた天井を映す。

「…ずいぶんと寝過ごしたな」

カチ、と秒針が急かすように音を立てる。
重たい頭をかかえて起き上がりローは溜息をついた。軽い眩暈。寝起きが悪いのはガキの頃から変わらない。
瞼を押し上げる寸前までその裏で焼きつけられた夢が、ローの身体と心に粘り気をまとわせていた。

あの男はどこまでもローに優しくて、温かく、何でも知っているようなあの顔でローを孤独にそっと突き落とす。

「船長、出航の準備が整いました」
「ああ…すぐに行く」

三度目の呼びかけにようやく答えると、ドアの外にいた気配は僅かに逡巡して静かに去っていった。
ベッドからローの長い足が下りて立ち上がる。
顔を洗って帽子を手に取り深く被ったローは、就寝前に向かっていたデスクに立てかけられた太刀を担いだ。

そのまま出ていこうと振り返る前に、ローの視線は鋭い一瞥を落とした。
デスクのうえに散らばるカルテと手配書。
先日、懸賞金が上がったばかりであるローの金額は億を超えていた。

「……いつまでグズグズしていやがる…」

早く見て。捕まえに来い。
喉奥で低く唸るローの呟きは挑発的に笑う自身に向けられては。

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