触れてはならない


こんなに凄まじい戦場をネッドは初めて見た。
今までとはまるで規模が違う。桁違いだ。
海軍が誇る最高戦力が真っ先に先陣を切って、居並ぶ中将達が刀を振るい砲弾を切る。
海賊船から下りた猛者達が処刑台を目指して走る中、マルコが黄猿の光線を防いだのを見てネッドはグッと拳を握りしめていた。

動物系“幻獣種”不死鳥マルコ。
再生の青い炎を纏わせたネッドの好敵手が黄猿に攻撃をお見舞いした時は、ネッドも正直、気が滾った。
あれを打ち負かすのは自分だとネッドの心が叫ぶ。

巨人族よりも身の丈が遥かに勝る“国引きオーズ”の子孫リトルオーズJr.が湾内への突破口を開くも、その巨体が災いして標的にされた。暴君の能力がオーズを沈め、処刑台へと必死に手を伸ばすもあと一歩のところで届かずに終わる。
モニター越しにドフラミンゴの笑い声が聞こえてネッドは眉を不機嫌からひそめた。
将校に上がる前からやけにしつこくネッドを海賊の道に誘い込んでいた七武海の男をネッドはあまり好んではいない。

「海賊が悪!? 海軍が正義!? そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!! 平和を知らねェガキ共と、戦争を知らねェガキ共との価値観は違う!! 頂点に立つ者が善悪を塗り替える! 今この場所こそ中立だ!」

「正義は勝つって!? そりゃあそうだろう――勝者だけが正義だ!!

「……相変わらず不愉快な物言いをする男だ、天夜叉は……だが、腹の立つことに理解出来る部分もある」
「……奴と会った事がある見てェな言いようだな」
「あるさ。何度も。会うたびに海軍を辞めておれの部下になれとしつこい男だった。もちろん断り続けたが」

さらっと事実を打ち明けたネッドの顔は涼しいものだ。
まさかそんな誘いをかけられているとは思わなかったローは痛烈な舌打ちを鳴らした。

明らかにそれはローへの嫌がらせだ。
ローはその昔ドフラミンゴの部下だった時期がある。ネッドがどこで習ったのかと訝しんだ剣術も体術も砲術も、彼がドフラミンゴの元にいた当時に叩きこまれたものだ。
ローは、その時期の話を未だネッドに話していない。
ネッドが聞こうとしてこないから、ローはその優しさに甘えている。

ネッドがローの肉親であると知った上でドフラミンゴはネッドを手に入れようとしたのだろう。
それは叶わなかった事ではあるが、自分の所為でネッドに手が伸ばされていた事にローは怒りを覚えた。


「ロー…考え事をしている所にすまないが…とんでもないモノが降って来たようだぞ…」
「あァ?」
「……軍艦が空から降って来た」

水柱を上げて海面に叩きつけられたそれにネッドが指を指す。
瞳を眇めてモニターを注視していたネッドは、米粒大の人間の顔までは判別付かなかった。
…ひとりとんでもなく顔の大きい人間はいたが、それ以外は良く分からない。

「麦わら屋じゃねェか…」
「…凄い行動力だな。あの場に兄を救いに行ったのか」

インペルダウンの脱獄囚を従えて“麦わら”のルフィが戦場に下り立った。ネッドの知った顔も列を成している。
クロコダイルはともかく、七武海であるジンベエが何故、麦わらの味方に? とネッドは首を傾げた。
この六日間で彼はエースの窮地を知りここまで駆け付けたのだろうが…あまりにも無謀すぎる。

ルフィが白ひげの元から走り出すと黄猿の眩い攻撃に呑まれて彼の小さな身体はすぐに見えなくなった。
それでも分かる。
ルフィも兄の居る処刑台へと向かっているのだ。
センゴクの声がまた響く。「革命家」ドラゴンの実の息子だと本日二度目の告白がシャボンディ諸島に驚きを与えた。

これは世界中が固唾をのんで見据える戦争だ。
ルフィの素性は瞬く間に世間へとその羽を広げることだろう。

処刑時刻は容赦なく刻々と迫っていた。

過去未来

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -