めくら


21番GRに来るまでに海賊は多く見かけた。
ローの顔は売れている。従って自然と注目も集めた。
ひそひそと囁かれる度にその後は決まってベポへと視線が流れるので、“死の外科医”が白クマを連れているのがそんなに可笑しいだろうかと、ネッドは首を傾げていた。

近くで戦闘騒ぎが起きた時はローも立ち止って見学する。
見学と言うよりは観察に近いその視線は鋭くやはり悪いひとの顔をしていて、だから周囲から誤解を受けやすいのだとネッドは胸に零していた。


「……ドレーク少将?」

“怪僧”ウルージと“殺戮武人”キラーが暴れている間に入った海賊をネッドは知っている。
同じ少将としての交流が昔あった。“赤旗”X・ドレークは本部所属だったが、本部にネッドが顔を出す日は必ず挨拶をしにきてくれた。
ネッドは彼が海軍を抜けた事を知っていた。海賊に身を堕とした事も。しかしまさか此処で会えるとはと、偶然の再会に驚いている。
ネッドの前でドレークも足を止めた。

「……! 貴方は…」
「…久しいな、ドレーク少将」
「元、少将です。…ネッド少将」
「ではその言葉をそっくり返そう。私も今は海軍に属してはいない」
「…貴方程のかたが海軍を…?」
「そうだ。今は弟の隣でこうして海賊をしている」

ドレークは信じられないといった顔をしている。
彼が知るネッドはとても海軍を裏切れるような人では無かったからだ。
トラファルガー・ローの噂はもちろんドレークも耳にしていた。
その手配書に飾られた写真がネッドと似通っている事も、同じ姓を名乗っていた事もドレークは知っていたが、本人に聞ける機会を逃して海軍を後にしている。

ローは隠していた情報がひとつ洩れて少し不機嫌だ。
顔見知りか、と問うローにネッドは昔ちょっとな、と小さく頷いた。ドレークの視線がローに向けられる。
その瞳に咎める色を見つけて彼の溜飲は下がった。
どれだけ非難されようとも最早ネッドはローの元に居る。刺青も背負った。誰にも渡しはしない。

「ロー…目付きが危ないぞ」
「海賊に友好的を求めるのか」
「……そういえばそうだな。ならば、喧嘩を売る時は私の目の前でしてくれ」
「あァ?」
「私の前でなら好きにして良い。知らない所で怪我をされてもいやだ」

無表情でローと話すネッドにドレークは昔を思い出した。やはり会話を聞いていても彼は海賊に向いているとは言い難い。
ネッドは強く正しいひとだ。
公平で真面目で。ネッドに憧れる海兵は多い。
ネッドの背を目標としてきた海兵がどれほどいるか。
海軍の闇にも染まらず疑わずただ真っ直ぐに生きる“冷徹”にドレークも憧れを抱いていた。だから、彼は問う。

「……貴方の正義はいまだ健在か…」
「? ドレーク殿、君には彼が見えないか?」
「…どういうことで?」
「私の正義はローの物だ。だから彼こそが私の正義だ。彼の隣に在れるのならば私は今の生き方を貫く。…君だってそうではないのか? 信念を曲げない君ならどこへ行っても君のままだろう」
「貴方は…………いや、良く分かりました。…まったく、これだから貴方には敵わない。それが貴方の選んだ道ならば、とやかくは言いません」

ネッドの正義は折れていない。
それが分かっただけでもドレークは満足できた。
けれど、ローには何か一言でも言わねばならないと思う。
ネッドが口を挟まないように手で制して、ドレークはローに向き直る。

「トラファルガー・ロー…貴様はとんでもない罪を犯した。これがどんな意味か分かるな」
「は、堕ちてきたのはネッドの意思だぜ」
「それでも、切っ掛けを作ったのは貴様だ。“冷徹”の名に掛けられた重さを貴様は今に知ることになるだろう」

それだけ言ってドレークは去っていった。
自分の所為で非難を受けたローにネッドは申し訳なさそうに視線を送る。
下を向くなとローは言う。自分の元に来た事を後悔していないのならば、それだけでいいと。
ローの言う通りだ。ネッドは後悔などしていない。
残してきた者は数あるけれどそれだって全部、ローとは秤に掛けられないほどネッドはローだけを見ていた。

ローが座っていた木箱から腰を上げる。
無法地帯へとネッド達は進んだ。1番GRにあるヒューマンショップへ行くために。

ローの隣に並んだネッドは外套を払ってドレークに背を向けた。向かう道は違うけれど同じ海賊であれば交じることもある。
マルコもドレークも何れ一本の道でネッドと再び出会えるのだから。

過去未来

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -