わたしの正義


ニュース・クーが手配書の挟まれた新聞を届けた。
またローの懸賞金が上がっている。
今度は二億だ。何をすればこんな金額になるのか分からない。ローも特に話さないし、ネッドも聞かない。
ネッドがローの元へ帰ってくるまでに、海賊である弟は着々と悪いひとの名声を高めていったようである。

その夜はシャチが音頭をとって宴の運びになったが、だからと言って翌日の鍛錬を怠らせるようなネッドではない。

「…敵さんも万全の状態なときを狙って襲う訳じゃねェしなァ…」
「そうだ」
「だからつまりそういう訓練だとでも思えば……無理だ」

おれは死んだとシャチがぼやいた。
酒を嗜まない白クマだけが甲板で元気に動き回っている。
ネッドは枠だ。酒に呑まれないし二日酔いもしない。
酒に強いローでさえもダルそうにしている中、ネッドにベポは組み手を申し出て最終的には転がっていた。


ハートの海賊団の船は潜水艦だが何も常に水中を潜航している訳ではない。
黒い海賊旗を広げて海を渡り、天気の良い日は洗濯物を干すなどして生活感を漂わせている。シャチのパンツがハート柄だった。
ローの懸賞金が大幅に上がったことにより同業者から喧嘩を売られる日もあった。そこでネッドは初めて弟の能力を実感する。

“超人系”悪魔の実「オペオペの実」の能力者。
発生させたサークルの中に君臨し全てを支配するローに、成程やっかいな能力だ、とネッドは人を切り刻むさまを見て思う。頭の良いローにピッタリだ。条件次第では上を狙える。
ただ、リスクも大きい。
聞けば使うほどに体力を消費する様でもあるから、ローもクルーと一緒に基礎体力の向上に努めてはどうだろうかと、戦利品を奪いに乗り込む彼らを横目にネッドは提案していた。

「能力に頼り切りという訳でも無いから私も煩くは言わない」
「泥臭い根性論は好かねェな」
「そう言うと思った。大丈夫、私も一緒に走っていることだし恥ずかしくは無い」
「そういう問題じゃねェよ、この真面目馬鹿」

能力を使用した後のローはとにかく沢山食べる。
身長の割に身体の線が細いのでネッドは食が細いのか、とも思ったがどうやらそうでもないらしい。
筋肉隆々とまではいかないがローの身体はしなやかな筋肉によって形成されている。つまり脱いだら凄い。

「両腕と両手の甲に刺青を入れているのは分かっていたが、まさか上半身全体にまで入れているとは」

風呂上りにジーンズだけという格好で出てきたローを見て、ネッドが感嘆のため息を洩らす。
後ろにもあるぞとローが背を向けると、彼のジョリーロジャーが笑っていた。
手招きをしてソファに座らせてせっせと髪を乾かすネッドは、弟の身体に刻まれたハートには何某かの意味があるのではと考えた。
でなければ痛い思いをしてまでこんなに入れるのはおかしい。

そしてローの言葉に耳を疑う。

「ネッドにも入れるぞ」
「え」
「もうデザインも幾つか考えてある。…いやか?」
「いや…少し驚いただけだ。私はローの物だ。好きにすると良い」

医者であるローが施術をするのならば安心だ。
そう言って乾かした髪を確かめるように優しく撫でる。
ネッドはローのしたいようにさせているが、本気で嫌なら彼と納得いくまでキチンと向き合う。
撫でられてもローは抗わずに眠たそうな声でそうか、と一言嬉しそうに呟いた。

一向にネッドの手配書が出ない。
ネッドは自分の考え通りやはり内々で処理されていくのだなと思っていたが、ローの考えは違う。
海軍はネッドをその手に取り戻したい。再び政府の狗として。彼を諦めきれないと思っているのではと、ローは考えていた。
だから、その前に、自分の所有印を刻んでしまおうと少し焦っている。

ネッドの裏切りの原因は明らかにローだが、未だに海軍はネッドの所在を掴めてはいなかった。
顔を隠すために帽子を被らせて、常に周囲へ気を配り、ネッドの存在が政府に露見しないためにもローは情報を渡さない。

それがいつしかローの見聞色の目覚めに一役買っていたのだが、それはまた別の話だ。
以前よりも格段に気配を読むことに長けた弟にネッドは良い兆しだ、と嬉しくなる。
ネッドが初めに習得したのも見聞色だった。血の繋がった弟であるローにも覇気の素質があるのは彼にも分かってはいた。

ネッドの正義はローの物だ。
その背に海軍の掲げる正義を背負っていたころも、昔も、いつだってネッドはローのためにと自分を顧みずに生きてきた。
強くなったのも金を送り続けていたのも、全部がローを想って彼が必要だと考えた結果だ。
送られてくる金はローがドフラミンゴの元へ行った時には全く手を付ける事もなくただ溜めこまれていったが、潜水艦を手に入れる時に役立っていたとはネッドも知らないだろう。

ローはネッドを怨んではいない。怨めるものか。
ただ、あの日、自分の言う事を聞かずに故郷を後にした幼い兄を未だに許してはいない。
許せないほど執着している。
ローは金など無くてもネッドがいればそれで良かったのだ。

四つ歳の離れた兄は自分よりも大人で、何でも分かったような顔をしてローを孤独に落とし、それでも憎めないと思うほどローは兄を愛していた。
それが歪んだ形をしていても。
ローはネッドを愛している。一人の男として。


全く意識もされていないがそれで良い。
ローにはこの秘密を打ち明ける気は無かった。

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