わたしと彼


「ああ、そうだ。ロー、電伝虫を貸してくれないか」
「? どこに掛けるつもりだ」
「いやちょっと…報告しようと思ってな」
「……だれにだ」
「……ライバル?」

ハートの海賊団に入ったからにはクルー一人一人の名前も覚えておかなければならない。
ラウンジに留まったネッドは彼らに交じり、出来るだけ言葉を交わそうと話を振った。ローの顔が怖い。
彼がその事を思い出したのは一通り名を聞いて頂いたコーヒーを味わってた最中のことである。
“不死鳥”マルコとのアレは一方的なものではあったが、ネッドは恩を忘れていないので連絡する事にした。

ペンギン、とローが一人の名を呼び付ける。
随分と可愛らしい帽子を被った彼はすっくと立ち上がり、パタパタと音を立ててラウンジから出ていって直ぐに戻って来た。
ネッドに渡された電伝虫はローと同じ帽子を被った彼仕様の物で、それの持ち主はネッドに向かって凄んでいる。
ここで掛けろ。何て無茶を言うのだ。

「アー…いや、それはちょっと」
「後ろ暗いことがねェなら、別にいいだろ」
「確かにないが…」
「ネッド」
「う、」
「おれに逆らうな」

しぶしぶと受話器を取ったネッドはマルコに渡された番号でダイヤルを回す。
固唾をのんで見守られる中、数回コールが鳴ってすこし懐かしい声が受話器越しに聞こえる。

「…だれだよい」
「不死鳥、私だ」
「…! …少し待てよいっ、」

マルコが低く唸るような声で出たので、ネッドはタイミングが悪かったのなら掛け直そうかと思ったが、即座に自分が気にする事でも無いなと考え直した。
連絡をしろと言ったのはマルコだ。そこに彼の都合は含まれない。

「待たせたかよい」
「いや、構わない」
「…やっと報告する気になったのかよい」
「ああ。これで私も不死鳥と同じ無法者だ」
「…そうか」
「おい、喜ぶな」
「は、別に喜んでねェよい」
「電伝虫の顔が気色悪いものに変わっているが」

電伝虫は通信相手の表情を映す。
マルコの顔を物真似たカタツムリは、なるほど、緩んでいる。
それも直ぐにひっ込められてしまったが今更遅い。

「いいか、次に会う時まで腕を鈍らせるな。もしも私以外の者に倒されたら…不死鳥、許さないぞ」
「それはこっちの台詞だ。…アンタの弟が新世界に入るまで勝負は預けておくよい」
「望む所だ」
「……」
「…不死鳥?」
「…いや、別に何でもねェ。じゃあねい」
「ああ、またな、不死鳥」

パチッ、と瞼が落とされる。
マルコの言葉はネッドを満足させるものだった。
お互いに相手を逃がす気は更々ない。マルコの様子が少しおかしいとも思ったが、別に気を止めるほどのことでも無いだろう。

沈黙した電伝虫をローに返すべく、顔を上げたネッドは…そこではた、と周囲を見回した。視線が集中している。
ローを見る。何だか顔がこわい。
ネッドはなぜローが怒っているのかが分からなかった。

「……ずいぶんと、大物の知り合いじゃねェか」
「知り合いではないぞ、ロー。あれは敵だ」
「敵なら、なんで連絡先まで知っていやがる…」
「新世界からこの前半の海まで帰るさいに白ひげ殿の恩情で船に乗せて頂いた。不死鳥はその間、私の監視役を仰せつかった。彼らに恩はあるが、アレは私の好敵手だ。連絡先はローに会って、海賊として再び拳を交えられるなら連絡して来いと無理やり寄こされた。従って私の意思では無い」
「…番号は燃やせ」
「分かった」

すでに番号を記憶してしまったネッドにはそれはあまり意味のない命令だったが、これでローの気が済むのなら構わない。
ネッドの一番はローだ。
マルコのことは一先ず横に置いといて、敵と親しげにされてまた連絡を取られてはローも堪らないのだろう。
そう結論づけたネッドには自分から再び連絡を取る気も無かった。マルコにその気があっても。ネッドにはない。

「“不死鳥”マルコか…」
「いやァ…元少将ともなると知り合いもビックだな」
「シャチ。知り合いでは無いぞ。あれは、」
「アー、うん…。ネッドさんが真面目なのはよーくおれらも分かったから」
「良くは無いな。認識は正しく持ってもらいたい」
「うおっ……曲がらねェ…」
「だから言っただろ、ネッドはただのクソ真面目だと」
「いや、船長。これは曲らなさすぎでしょう」
「ねえネッドさん。さっきのひと強いの?」
「……ムカつくことに」
「へえー。ねえねえ、キャプテンよりも?」
「おいベポ。船長を引き合いに出すのはやめておけ」
「いや構わねェ。聞かせろ」
「…聞かせろとは言われても…私はローの戦闘をこの目で見たことはないからな。答えは保留だ」

ただ、と続けたネッドにローが胡乱気な眼差しを送る。

「ローと不死鳥が戦う事はない。奴がその技をローに向ける前に私が阻止するからだ。ローに手出しはさせない」

「決してローのことを軽んじている訳ではないが、ローのことは…私が守る。……私はローの物だ」

まったく顔色を変えないくせにネッドの語る口は滑らかで、聞いている此方の方が恥ずかしい。
ローは満足そうだがクルーは堪らない気持ちになる。
あれは素か。素だろうな。船長うれしそうだな。当然だろ。しかも表情まったく変わんねェし、無表情で情感たっぷりって逆にこわい。

べポだけが嬉しそうにネッドの手を取ってぶんぶん振り回していた。

ハートのクルー一同は「ネッドはクソが付くほどの真面目で天然である」と改めてインプットした。
船長、頼むからニヤニヤするのは控えて下さい。

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