探さないかくれんぼ



「ヒーローってのはな、正体を明かさないのがヒーローなんだ」

この人たちは普段何してるの? 名前は?
俺がまだ今の楓よりも小さい頃、何気なくいった言葉に父さんが語ったヒーローというもの。

「ないしょなの?」
「そうそう、内緒なんだよ。だってよお、憧れのヒーローが同じスーパーで買い物! なぁんて姿見たら徹琉だってがっかりしちゃうだろ? な?」
「……わかった。ないしょにする」
「……する?」

神妙な顔で頷いた俺に父さんが首を傾げる。
かあさんに頼まれ買い物カゴをぶら下げた父さんの姿を見た時から、俺の知らないふりは始まっていたと思う。



グリーンアスパラ、ニンジンスティック、ベーコン。茹でたアスパラと人参をベーコンで巻きながら、よいしょ、とずり落ちそうになった携帯を肩と顎で挟み直した。

『ねえお兄ちゃん、聞いてるの?』

新しく買ってもらったばかりの携帯から聞こえるのは俺の可愛い可愛い妹の声。

「はいはーい、ちゃんと聞いてま……あ、やべ、楊枝突き抜けた。折れちゃった」
『あ、ご飯作ってたんだ』
「うん。簡単アスパラのベーコン巻き作成中ー。大量に作って作り置きでもしようかなって。後は適当に野菜切ってサラダ作って、そんで仕上げに『マヨネーズ』」

二人で同時に噴き出した。
声が揃ったのが面白かったのか、それとも何にでもマヨネーズをかけるあの人の事を想像したからなのか。お陰で楊枝が指に刺さっちゃったけどお兄ちゃんは我慢しましたよ。

フライパンにころころと巻き終わった物を並べながらつい「楓とばーちゃんとご飯たべたいなー」と呟くと『…帰ってくればいいでしょ』ちょっと拗ねた声が耳を擽った。かわいいなーもう!

「今度の休みには絶対行くし、我慢してよ。ね?」
『……明日の発表会は?』
「行く。絶対行きます。それに父さんだって忘れてない筈だよ」
『本当に?』
「でも俺が言うより可愛い楓が直接言ってやった方が父さんだって約束守ってくれるよ」
『えー……』
「だから、また後で電話を頂けますか楓さまー」

ははーっと相手には見えなくともお辞儀する。『うん、よろしい。また後で電話してあげる』くすくす笑い混じりの声が応えた。うん、お兄ちゃんはそんな楓が大好きです。
ありがとう、そしてありがとう。某キングオブヒーローの台詞が自然と出て、また笑った。


『じゃあ、お父さんは何時帰ってくるの?』


当然の疑問にチラッと視線をテレビへ。
映し出されているのはシュテルンビルトの人気テレビ番組「HERO TV」。いつもの実況アナウンサーの声が番組を盛り上げていた。

そして、

「えーっと、もうちょっとで帰ってくるんじゃないかなー、なんて」

画面を占拠していたのは突如現れたらしい謎のヒーローらしき人。一緒に映っているのはデビューしてから10年を超えるベテランヒーロー、ワイルドタイガー。

料理と妹とのお喋りに夢中で全くテレビを見ていなかったから何故そんな状況になったのか分からないけれど、

「なんでお姫様抱っこされてんだよ、……父さん」
『え? なんて言ったの? お兄ちゃん』
「あ、うん。今解決したみたいだか――あ! いやっ仕事終わったみたいだから帰ってくるみた、い……?」
『ふうん』

ぼそっと呟いた声は運良く妹の耳へは届かなかったみたいだ。


探さないかくれんぼ



いやあだって、知ってますもん。

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