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「フーーーッ!(さわんなこの野郎!)」


たんっと尻尾が強く地面を叩いた。長い其れを大きく左右に揺らし、不機嫌を表す。
普通ここまであからさまにされたら分かりそうなものだが、相手が相手だ。再び頭上に伸びてきた手をくるりと転がってかわし、

「ぅなあ!(しつこい男は嫌われんぜ、虎よ)」
「いってっ!!」

猫パンチをお見舞い。
爪を出したままだったので手の甲にはくっきりと赤い線が残った。どうだ参ったか。いや、参れ!


「にゃー」
「にゃー、じゃねえよお前。相変わらず可愛くねえのなあ、クロちゃんはよ……」
「なぁー(真似するなよ、かわいくねえ)」

軽く伸びをして欠伸をひとつ。寝込みを狙ってきた男の足の間をすり抜けて歩きだした。さり気なく尻尾で叩くのを忘れずに。

後ろから何か言ってる声が聞こえたが、俺、猫だからわかんねえや。


「にゃあー(アイツはこっちの事などお構いなしに撫でるから気にくわんのだよ)」
「なぁーん」
「にゃ……(お前に言ってもわからんか)」

顔見知りの野良猫と身体を擦り寄せて挨拶。これくらいの処世術、野良猫の世界では常識だ。しっぽ擦りあうもなんとやら、か?
因みに、お前も野良だろ、という意見は置いておけ。それは俺の台詞だ。


俺と虎のやつは長い付き合いだと思う。それこそ、奴がワイルドタイガー、ヒーローと呼ばれる輩になる前からだ。
人に撫でられるのが嫌って訳じゃねえ。無理強いされなきゃ、相手がうまきゃアレは気持ちのイイもんだ。機嫌の良い時は喉だって自然と鳴る。

まあ、あいつの嫁さんが俺の事を可愛がっていてくれたからってのが、付き合いの始まりなんだけどな。


「ぅなー」

かんらん石の瞳が昔を懐かしむように細められる。
オリーブ色のそれを路地裏に向け、するりと身を滑り込ませた。


頭から尻尾の先まで真っ黒な猫。
それが、今の俺だ。

まえもくじうしろ
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