Honey tea time


「ゆーり、ぼく、みっつね」
「……把握している、が手を出してはいけない。危ないと何度も私は言っているでしょう?」
「はぁーい」

暖めておいたティーポットに茶葉を入れ沸騰した湯を注いだ。
立ち上った湯気の向こうでは子供が瞳を輝かせて見守っている。
黒々とした大きな瞳は動作一つ一つを追って忙しく動き、ぷっくりとした唇も言いつけを守ってか集中してか、今は閉ざされていた。
蓋をし蒸らしている間もじっとポットを見つめるその姿は待てと言われた子犬その物。
ユーリは細く長い指を口元へ添え、ゆるく持ち上がったそれを確認しては苦笑へと変えていった。

随分と笑うようになった。
それはユーリの事であり、なまえの事でもある。

「ゆーり、もーいーよーっ」
「あぁ、よく分かりましたね」
「かぞえてたから」
「そう」

褒める代わりに手触りの良い髪を撫でてそのまま襟足をかき上げ、指の間からさらさらと落ちる感触を楽しんだ。

「……ん、」
「なまえ」

くすぐったいのか首を竦め、小さな笑い声が優しく響いた。
揃いのカップには注がれた琥珀色。
ふわりと香った匂いが鼻孔をくすぐる。
火傷をしないよう注意を述べながら子供の前へと置いた。

さあ、どうぞ。

蜂蜜の入った器から一匙。
スプーンから溢さないよう、慎重に、ゆっくりとすくう。

「ひとーつ」

とろり。

「ふたーつ」

ティースプーンから蜂蜜が落ち、琥珀の中でもやの様に溶けて広がる。
間延びした幼い声は窓から差し込む日の光と混じりあい、冷えきっていたユーリの心をも少しずつ溶かしていった。

なまえがユーリの元へ来てからユーリの周りには色が増えた。
取り戻したと言っても良いくらい。
初めのぎこちない上部だけの生活からは想像もつかないほど、二人の間には優しさに溢れていた。
ひとりぼっちの子供と孤独な大人。
手を繋ぐように寄り添うように隙間を埋めては色を増やしていく。時間。
二人で過ごす間はいつも余裕の笑みを称えた裁判官ユーリ・ペトロフは何処にも居ないのだ。

「みーっつ」

最後の一滴が琥珀に溶ける。

しかし、自分も入れようと蜂蜜を引き寄せたユーリの目を盗み、かき混ぜる前にぱくっとスプーンを口に含んだ。
ほわっ。幸せそうに微笑む。
内心微笑ましく思いつつ、柔らかな頬を突き片眉を上げて窘めると

「だって、おいしそうだったから」

ごめんなさい。
名残惜しそうに唇を舐める姿に溜め息を吐いた。
可愛いのだ、とても。

もう少しだけ、この子は自分の容姿が与える影響を理解した方が良いのかも知れない。
これでは外へ出た途端よからぬ輩に連れて行かれかねない。
一人で外出させる気は全くないのだが。

親指でなまえの唇を拭い、無意識の内にその指を舌でなぞる。
ほのかな甘い味を舌先で感じとり、そこで漸く自分の行動に気が付いた。

ゆーりも舐めたいの? と無邪気に聞く声に、こほんと一つ咳払いで誤魔化した。


Honey tea time


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