おなじ心を食べていた


片腕で抱き上げられても、ソファーに座るよう促されてもひっついて離れない俺に文句一つ言わずに背を撫で続けてくれた。
痰のように嗚咽が絡まって喉を痙攣させる俺に心配する声が降る。

「……っ、ふぅ……」
「我慢するな、もっと泣いちまえ」
「や、だ」

耳元で暗示の如く、泣け、と囁かれ続け意地でもこれ以上泣くもんかと変に意固地な俺。ずっと悶々として燻っていた所為もあり、言いようのないもどかしさが胸を埋めた。
これは完全なやつ当たりだ。


「なんで、覚えてないのアントニオさん、」
「……徹琉、何を」
「俺ばっかり悩んで、俺ばっかり覚えているのならもうやだ忘れたいよ、いらないよ、アントニオさんの事ばかり考えて、つらいよっ」
「……!」

息を呑む彼に構わず堰を切った様に言葉が止まらない。溢れだす。抱え込んでいた全てをぶちまけて楽になれたらという身勝手な思いが付き動かした。もう結果なんて構うもんか。言ってしまったもの。今はまだ甘えたって良いんだって、アントニオさんが言ったじゃないか。

顔を上げキッと睨み上げて、でも直ぐに解けた。訳が分からないといった表情をしていたら、この野郎、と怒鳴りつける勢いだったのに揺れる瞳と口元を押さえる掌に目を瞬かせた。
信じられない、と顔に書いて動揺も露わにうろたえる姿。
呻くように「夢じゃ、なかったのか」続けて洩らした呟きを聞き逃しはしなかった。


「あれは、俺の夢だとばかり……」


横を向く彼の染まった頬はお酒の所為だけでなく、耳まで真っ赤になって瞳を彷徨わせる。

「俺の欲求が生みだした幻でお前を……、汚したんじゃねえかって罪悪感を抱えちまった」
「ゆめなんかじゃ、ないよ」
「……みてえだな」

呆気にとられぱくぱくと口を開閉させたままでいると、ちゃんと覚えてる、しっかりした口調で宣言され、それをやっとのことで呑みこむとカーッと首から熱が上昇した。
ということは、俺はつまり。
先程責め立てた言葉の数々を思い出し慌ててアントニオさんの腕の中から逃れようともがく。

「おい、急にどうした徹琉!」
「おあああ離してアントニオさん、無理、今言ったこと忘れてっ、俺死ぬほど恥ずかしい事言った!」
「馬鹿! 忘れるかよ!」


一喝され固まった俺に、真剣な表情で口を開く。


「ダチの、それこそ親子程年の離れた子供に入れ込んで、手を出す事を躊躇ってたんだ」
「……おれ?」
「先に口説いたのはお前の方だぞ。今更、」

目の前で逃すかよ。
口説いた覚えなんてないよ、と否定する材料など俺の中には無く。紅潮し今までどれ程自分が我慢してきたのか分かるかとなじる表情は男らしいのに、非常に可愛くて。

ふへっ、と吐息と共に笑い出す俺はこの時一つ悟りを開いたようだ。

アントニオさんが大好き。

これはきっと恋と呼べる代物に昇華したんではないだろうか、と。
仄かに香るお酒の味に、自分から喰いついた。

おなじ心を食べていた



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