会えない人の知らない顔



ジロジロと遠慮ない視線に晒されて身の置き場がない。別に俺は人見知りじゃない。第一そういう問題じゃない。
アントニオさんの腕を掴んでじっと耐えてたけど、

「あらん、かわいいお尻発見」
「う、ひゃっ!」
「おい!」
「ふふふっ、冗談よ」
「その手を退けてから言いやがれ!」

飛びあがって、やっぱりアントニオさんの影に隠れてしまった。尻を、尻を撫でられた……。


「アンタがウキウキと帰っていくから気になって付いてきちゃったわ」
「気になる、そして気になってしまった! すまない、アントニオくん。反省はしている」
「……わ、私は別に邪魔するつもりじゃ」

俺たちを窺っていた人達はアントニオさんを振り切って目の前にいる。
褐色肌のおネエさんと金髪の爽やかそうなお兄さんと金髪のお姉さん。
全くと言って良いほど接点が不明だ。年齢もバラバラだしアントニオさんと一体どういう繋がりがあるんだろう。むくむくと嫉妬めいた気持が首をもたげる。

物問いたげな俺の視線を不安がっていると勘違いしたのか「大丈夫だ、そう害はねえ」ぱふっと頭を撫でてキラリと歯を見せた。
違います、そうじゃないんです。嬉しいけど。

「見せつけてくれるじゃないの」
「馬鹿違うって、コイツは……」

逡巡し、ちらっと俺を見下ろして、

「虎徹の息子だ」

三者三様驚きの声に、俺はまた竦み上がる事になった。


「タ……、予想外だわ、こんな大きな子もいたのね」
「タ……、虎徹君の息子君、初めましてだ! お父さんにはいつも世話になっている」
「タ……、虎……、えっ、むす、こ……あはっ、はは」

父さんも知り合いなのかよ! というツッコミは俺も驚きすぎて声も出ない。金髪のお姉さんは何やらショックを受けているみたいで口元が引き攣っている。

「鏑木徹琉です。あの、父さんとはどういったお知り合い何でしょうか?」

勇気を出して前に出て自己紹介と疑問をぶつけてみると、アントニオさん含め全員が焦った様に友人だの知人だの口々に言う。
どうにも嘘臭いけど一応の納得をする。だって聞いたら困る事があるんでしょう? まあいいけどさ。

年上の人達に囲まれて、しかも皆さん俺よりも背が高いもんだから無意識の内に気遅れしてしまう。
そんな俺にいち早く気づいたアントニオさんが、

「徹琉、こいつ等には構わねえでもう行くぞ」

言って、抱き寄せるよう肩を引いたもんだから、うひゃあ、変な声を上げて逃げてしまった。
ああ、まずい、アントニオさんが落ち込んでしまった!

「ご、ごめんなさい。ちょっと吃驚しちゃっただけだから」
「……ああ」
「強引過ぎる男は嫌われるわよー」
「……」
「アントニオ、さん」

拗ねた横顔が可愛いなんて思ってしまった、とか言ったら、今度は怒っちゃうんだろうな。流石に。

会えない人の知らない顔



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