また馬鹿なこと考えてる



寄るつもりの無かった露店の前で腕を組んでしかめっ面。目の前にはヒーローカード。財布には紙幣が数枚。

「すいません、ロックバイソンとワイルドタイガー5枚ずつ下さい」

受けとって上着のポケットに突っ込むとそそくさと店を後にした。完全な自己満足だけどもうちょっと売れたっていいと思うんだ。
寂しくなった財布に、今月はお菓子を少し我慢しようと心に誓う。


「え、なに? もう一回言って!」
『パパ今夜は仕事で帰んねえから、寂しかったらアントニオんとこでも行ってくんねーかなーって、じゃあな!』
「ちょっ」

アントニオにはそれとなく言っておいたから。ぶつっと切れた端末を唖然とした顔で見つめた。モバイル越しに聞こえた赤ん坊の泣く声と女の子の声も気になるけど、ちょ、一体全体どうしてそういう事になるのさ!

相も変わらず言えず仕舞いの緊張しいの動悸がおかしいので俺は手いっぱいなのに。
仕方ない、今夜は何か出来合いでも買って早めに寝よう。一人決意した俺にタイミング良くコールが鳴る。
着信は今心の大半を占めている人からだった。


「遅いなあ、アントニオさん」

そわそわと落ち着きなく待ち合わせ場所でアントニオさんを待つ。
父さんに頼まれたのか、それとも好意なのか「一人なんだろ」と言われ一も二も無く頷いてしまった。……俺はちょっと馬鹿なんじゃないだろうか。二人きりでご飯なんて食べて喉を通るのかよ。

トレーニングが終わったらすぐ行く、と言われたんだけど暇な俺は外出先が近かった事もありこうして絶賛「待ち人を待つ」なのである。

「徹琉!」

ビクッと肩を揺らしてそろり顔を上げた。
頭一つ抜きんでた長身が俺を目指して走ってくる。ひらひらと手を振って応え、なんか恋人同士みたいだね、なんて冗談でも言えないシチュエーションに笑えなかった。
そう考えてしまった事にまた悶えたんだけど。

「待たせたか」
「別に、それ程でもないよ」

だからなんでこんなこいびとみたいなことを……!


爽やかに、嬉しそうに笑むアントニオさんに申し訳無くて、自分が恥ずかしくて視線を泳がすと、あれ、声を洩らした。
物陰から顔を出す影がひとつ、ふたつ、みっつ。どの顔も見覚えはない。
俺の視線に気づいた一人が、バチン、音が鳴りそうなウィンクを飛ばしてきて、驚いてアントニオさんの影に隠れた。

「おい、どうした急に」
「アントニオさん、あれ……」
「ああ?」

怖々指を指す方へ振り向いて、途端に俺と同じ反応をした。ビックリするよねえあれは……!

「あいつ等……、ちょっと待ってろ。いいな、ここから動くんじゃねえぞ」
「え、う、うん」

猛烈な勢いで走り出した彼の後姿はまさに猛牛だった。

また馬鹿なこと考えてる



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