これはもう患っていると思う



「……俺が偶然通りかからなかったらどうなってたと思うんですか、ヘタしたら留置所ですよ留・置・所」
「すまん、面目無い徹琉」
「たいほー」
「本当に、すまんっ!」

ほたほたと俯きがちに歩くアントニオさんの横に並んで恨み事を言う俺には遠慮がなかった。
驚きの展開に、どう顔を合わせたらいいか悩んでいた事がすっかり解消されてしまったと気付かずに。


俺の賢明な援護射撃の甲斐あってかなんとか警察にお世話にならずに済んだアントニオさん。
全身黒ずくめの恰好の訳を聞いたら、まあ、なんと言うか、すみませんでしたとしか言えなかった。父さん達も強盗団を逮捕出来たみたいだし。


「ごめんね、アントニオさん」

今まで愚痴を言っていた俺が突然謝ったから戸惑った顔で見下ろしてくる。

「ロックバイソンとして活躍出来なかったでしょ」

ヒーローなのに、市民を助けたり、犯人逮捕したり、ポイントだって稼がなきゃいけなかったでしょ、て。
今回の事だって会社に戻ればアントニオさん怒られちゃうよね。
彼の順位を考えれば今回出動出来なかったのだって相当の痛手の筈だ。

夜の街並みを見上げると巨大モニターには、今回のポイントと犯人逮捕に活躍したニューヒーローの顔が映し出されていた。
もしかしたらあそこに映っていたのはロックバイソン、アントニオさんだったかも知れない。そう思うと本当に残念でならないんだ。

立ち止ったアントニオさんの傍で項垂れる。

「お前が気にすることじゃねえよ」

優しく頭を撫でてくれた。
大きな手のひらで髪を梳く様に、やさしく。
俺は彼の胸にやっと届きそうな位しか身長が無いから、そうされると腹に顔を埋めるような体勢になってしまい、


じわっと体中から汗が噴き出る感覚がした。


「……っ、う」

以前はこうされても特別な感情は湧き上がらかった。でも今はダメだ。近ければ近いほど、アントニオさんが俺に触れれば、あの夜の事が鮮明に思い出されて平静で何ていられない。
何日も経つのに記憶だけは濃厚で、今顔を見られたら、

「恥ずかしくて死んでしまうかも……」
「お、おい、大袈裟だな」
「……」
「……すまなかった。つい昔みてえで」
「俺、前にもこうして撫でられたことありましたっけ」
「ほんのガキの頃だ、お前も覚えてねえだろうさ」

ふうんと気のない素振りで、何気ない風を装って、足元を見た。
一人分開いたそこを半歩だけ埋めて「もう帰ろう」袖をつまんで促した。

闇に溶けてしまいそうな真っ黒アントニオさん。手を離したら居なくなってしまいそうで、ずっと握りしめていた。

ねえ、なんでこんなに離れ難いんですか?
教えてください。
俺は一体、どうしたいんでしょうか。


「やっぱり覚えてないんですか」とは結局言えなくて、また悶々とする日々に逆戻りだ。

これはもう患っていると思う



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